1 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して,同一の特許発明につき同法の規定による医薬品の製造販売の承認がされている場合において,延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる審査事項について両承認を比較した結果,先行する承認の対象となった医薬品の製造販売が,延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品の製造販売を包含すると認められるときは,延長登録出願に係る特許発明の実施にその出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められない。 2 特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった医薬品医療機器等法の規定による医薬品の製造販売の承認に先行して,同一の特許発明につき同法の規定による医薬品の製造販売の承認がされている場合において,次の~など判示の事情の下では,先行する承認の対象となった医薬品の製造販売が,延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品の製造販売を包含するとは認められない。 (1) 本件特許権の特許発明は,血管内皮細胞増殖因子アンタゴニストを治療有効量含有する,がんを治療するための医薬品の成分を対象とする物の発明であり,医薬品としての実質的同一性に直接関わることとなる両承認の審査事項は,医薬品の成分,分量,用法,用量,効能及び効果である。 (2) 先行する承認の対象となった医薬品は,その用法及び用量を「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人には,ベバシズマブとして1回5mg/kg(体重)又は10mg/kg(体重)を点滴静脈内投与する。投与間隔は2週間以上とする。」とするものであるのに対し,延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品は,その用法及び用量を「他の抗悪性腫瘍剤との併用において,通常,成人にはベバシズマブとして1回7.5mg/kg(体重)を点滴静脈内注射する。投与間隔は3週間以上とする。」などとするものである。 (3) 先行する承認によっては,XELOX療法(1サイクルを3週間とし,内服薬と2時間の点滴薬の投与で済む療法)とベバシズマブ療法との併用療法のために延長登録出願の理由となった承認の対象となった医薬品の製造販売をすることは許されなかったが,延長登録出願の理由となった承認によって初めてこれが可能となった。
1 医薬品の製造販売につき,特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった承認に先行する承認が存在することにより,上記出願の理由となった承認を受けることが必要であったとは認められないとされる場合 2 医薬品の製造販売につき,特許権の存続期間の延長登録出願の理由となった承認に先行する承認がされている場合において,先行する承認に係る製造販売が,上記出願の理由となった承認に係る製造販売を包含するとは認められないとされた事例
(1,2につき)特許法67条2項,特許法67条の3第1項1号,(医薬品医療機器等法)医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律14条1項,(医薬品医療機器等法)医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律14条2項3号柱書き,(医薬品医療機器等法)医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律14条9項
判旨
特許法67条の3第1項1号にいう「特許発明の実施に政令処分を受けることが必要であったとは認められないとき」の判断基準につき、先行処分と出願理由処分の審査事項(成分、分量、用法、用量、効能、効果)を比較し、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして実質的同一性に直接関わる事項において、先行処分の対象製品の製造販売が出願理由処分の対象製品の製造販売を包含するか否かにより判断すべきであるとした事例。
問題の所在(論点)
先行処分が存在する場合において、特許法67条の3第1項1号にいう「特許発明の実施に(出願理由)処分を受けることが必要であったとは認められないとき」に該当するか否かの判断基準。
規範
特許権の存続期間の延長登録制度の目的は、政令処分を受ける必要があったために特許発明を実施できなかった期間を回復することにある。したがって、先行処分と出願理由処分が存在する場合、特許法67条の3第1項1号の該否は、先行処分の対象となった医薬品の製造販売が、出願理由処分の対象となった医薬品の製造販売を「包含」するか否かにより判断すべきである。この包含関係の有無は、特許発明の発明特定事項ではなく、延長登録出願に係る特許発明の種類や対象に照らして、医薬品としての「実質的同一性」に直接関わることになる審査事項(成分、分量、用法、用量、効能、効果等)を比較して判断する。
重要事実
本件特許は血管内皮細胞増殖因子アンタゴニストを含有するがん治療組成物に関する物の発明である。被上告人は、有効成分(ベバシズマブ)、効能(結腸・直腸癌)を同じくするが、用法・用量(1回7.5mg/kg、3週間間隔等)が異なる「本件処分」を受け、これを理由に延長登録出願を行った。これに対し、以前に用法・用量が異なる(1回5mg/kg又は10mg/kg、2週間間隔等)「本件先行処分」が存在しており、特許庁は、発明特定事項の範囲でみれば先行処分により実施可能であったとして、本件延長登録出願を拒絶した。
あてはめ
本件特許は医薬品の成分を対象とする物の発明であり、実質的同一性に直接関わる審査事項は成分、分量、用法、用量、効能、効果である。本件処分と先行処分を比較すると、成分や効能は共通するが、用法・用量が異なっている。先行処分においては、特定の併用療法(XELOX療法)のための本件医薬品の製造販売は許されておらず、本件処分によって初めてこれが可能となった。したがって、先行処分の対象医薬品の製造販売が、本件処分の対象医薬品の製造販売を包含するものとはいえない。よって、本件処分のために特許発明を実施できない期間があったと評価される。
結論
本件処分を受けることが必要であったとは認められないとした特許庁の審決は違法であり、これを取り消した原判決は正当である。上告棄却。
実務上の射程
成分が同一であっても、用法・用量等の異なる後続の承認(一部変更承認等)について、それが先行処分の範囲に包含されない限り、延長登録が認められる余地を広げた。
事件番号: 平成17(行ヒ)106 / 裁判年月日: 平成17年10月18日 / 結論: 破棄自判
(省略)