債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において,譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても,このことについて譲受人に過失があるときには,債務者は,当該事由をもって譲受人に対抗することができる。
異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした債務者が,譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗することができる場合
民法468条1項
判旨
債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合、譲受人が譲渡人に対する対抗事由の存在を知らなかったとしても、そのことにつき譲受人に過失があるときは、債務者は当該事由をもって譲受人に対抗できる。
問題の所在(論点)
民法468条1項前段(改正前)に基づき、債務者が異議をとどめない承諾をした場合、譲受人に「過失」があるときでも、債務者は譲渡人に対する対抗事由を譲受人に対抗できなくなるのか。
規範
民法468条1項前段(改正前)の趣旨は、譲受人の利益保護と取引の安全にある。しかし、譲受人に過失がある場合には保護の必要性が低く、債務者の承諾のみで対抗事由が封じられる重大な効果を鑑みれば、両当事者の均衡を図るべきである。したがって、譲受人が対抗事由の存在を知らなくても、これを知らなかったことにつき過失があるときは、債務者は当該事由をもって譲受人に対抗できると解するのが相当である。
重要事実
貸金業者Aは、上告人に対し制限超過利息を含む貸付を行っていた(本件取引)。Aは被上告人に対し本件取引の債権を譲渡し、被上告人は元本充当前の金額を債権額として通知した。上告人は異議をとどめずにこの譲渡を承諾した。本件取引には旧貸金業法43条1項(みなし弁済)の適用がなく、制限超過部分は元本に充当されるべき事由(本件事由)があったが、被上告人は同項の適用があるものと誤信していた。上告人は、過払金返還請求に際し、被上告人に対して本件事由(元本充当)を対抗できるかが争われた。
事件番号: 平成26(受)2344 / 裁判年月日: 平成27年6月1日 / 結論: 棄却
異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした債務者が,譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗することができる場合
あてはめ
本件において、上告人は本件取引で18条書面の交付が全くなく、被上告人はその事実を知り得たと主張している。旧貸金業法43条1項の適用の有無は、客観的事実である書面交付の存否等に依拠する。原審は、当時の裁判例の状況から「重過失」はないと判断したが、本基準によれば、被上告人が通常の注意を払えば18条書面の不交付等の事実(本件事由)を知り得たか、すなわち「過失」の有無を審理すべきである。この点を確認せずに上告人の対抗を否定した原審の判断は是認できない。
結論
債務者が異議をとどめない承諾をした場合であっても、譲受人に過失があるときは、債務者は譲渡人に対する抗弁(元本充当の事実等)を譲受人に対抗できる。
実務上の射程
改正前民法468条1項の解釈に関する重要判例。現行法(平成29年改正後)では同条の「異議をとどめない承諾」による抗弁喪失の規定自体が削除され、譲受人の善意・無過失を要件とする468条1項(対抗事由の留保)等の構成に整理されたが、本判決の「譲受人に過失があれば保護されない」という法理は、過失の有無を判断する際の規範として依然として参照価値がある。
事件番号: 平成16(受)458 / 裁判年月日: 平成16年10月26日 / 結論: 棄却
甲が,乙と共に相続した預金債権のうちの乙の法定相続分に当たる部分について何らの受領権限もないのに受領権限があるものとして金融機関から払戻しを受けていながら,その払戻しに係る金員について乙が提起した不当利得返還請求訴訟において,一転して,上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,乙が上記金融機関に対して乙…
事件番号: 平成18(受)276 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: 破棄差戻
利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領した貸金業者が,その預金口座への払込みを受けた際に貸金業の規制等に関する法律18条1項に規定する書面を債務者に交付していなかったために同法43条1項の適用を受けられない場合において,当該貸金業者が,事前に債務者に約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載した償還表を交付してい…
事件番号: 平成21(受)47 / 裁判年月日: 平成21年9月4日 / 結論: その他
貸金業者が借主に対し貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成するのは,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られ,この理は…
事件番号: 平成16(受)424 / 裁判年月日: 平成18年1月24日 / 結論: 破棄差戻
1 利息制限法所定の制限を超える約定利息と共に元本を分割返済する約定の金銭消費貸借に,債務者が元本及び約定利息の支払を遅滞したときには当然に期限の利益を喪失する旨の約定が付されている場合,同約定中,債務者が約定利息のうち制限超過部分の支払を怠った場合に期限の利益を喪失するとする部分は,同法1条1項の趣旨に反して無効であ…