甲が,乙と共に相続した預金債権のうちの乙の法定相続分に当たる部分について何らの受領権限もないのに受領権限があるものとして金融機関から払戻しを受けていながら,その払戻しに係る金員について乙が提起した不当利得返還請求訴訟において,一転して,上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,乙が上記金融機関に対して乙の法定相続分に当たる預金債権を有していることに変わりはなく,乙には不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないと主張するに至ったなど判示の事情の下では,甲が上記主張をして乙の不当利得返還請求を争うことは,信義誠実の原則に反し許されない。
不当利得返還請求訴訟において不当利得返還請求権の成立要件である「損失」が発生していないと主張して請求を争うことが信義誠実の原則に反するとされた事例
民法1条2項,民法478条,民法703条,民法899条,民訴法2条
判旨
無権限で他人の相続分に係る預金の払戻しを受けた者が、不当利得返還請求に対し、金融機関の過失により払戻しは無効であり債権は消滅していない(損失がない)と主張することは、信義則上許されない。
問題の所在(論点)
無権限で預金の払戻しを受けた者が、不当利得返還請求訴訟において、払戻しが民法478条の弁済として無効であることを主張して「損失」の要件を否定することが許されるか。
規範
自ら受領権限があるとして利得を得た者が、後にその払戻しの無効を主張して利得の返還を拒むことは、相手方に不当な訴訟上の負担を強いるものであり、信義誠実の原則(民法1条2項)に照らして許容されない。
重要事実
被相続人丙の預金債権について、共同相続人の一人である上告人が、何ら受領権限がないにもかかわらず、他の相続人(被上告人)の法定相続分(2分の1)に相当する金員についても金融機関から払戻しを受けた。これに対し被上告人が不当利得返還請求を提起したところ、上告人は「金融機関に過失があるため、本件払戻しは民法478条の弁済として有効ではなく、被上告人の預金債権は依然として存続している。したがって被上告人に『損失』はない」と主張して争った。
事件番号: 平成16(受)2134 / 裁判年月日: 平成17年7月11日 / 結論: その他
甲銀行に対し預金債権を有していた丁の死亡により,乙,丙及び戊が当該預金債権を相続したのに,甲銀行が当該預金債権の全額を乙及び丙に払い戻したこと,乙及び丙は,戊の法定相続分相当額の預金については,これを受領する権限がなかったにもかかわらず,払戻しを受けたものであり,この払戻しが債権の準占有者に対する弁済に当たるということ…
あてはめ
上告人は、払戻しを受ける際には自ら受領権限があるものとして振る舞いながら、本件訴訟では一転して払戻しの無効を主張している。このような主張を認めると、何ら非のない被上告人は、自らが関与していない「金融機関の善意無過失」という立証困難な問題の判断を強いられることになり、訴訟上の過大な負担を受忍させる結果となる。このような上告人の態度は自己矛盾的であり、信義誠実の原則に反するといえる。
結論
上告人の主張は信義則上許されず、被上告人に対する不当利得返還義務を免れない。上告を棄却する。
実務上の射程
不当利得における「損失」の要件をめぐり、利得者が債権の存続を理由に反論する場合の再反論(信義則)として活用される。判例の文脈は無権限受領者による禁反言的態様を重視しており、特に共同相続人間での預金無断払戻しの事案において強力な射程を持つ。
事件番号: 平成26(受)1817 / 裁判年月日: 平成27年6月1日 / 結論: 破棄差戻
債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において,譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても,このことについて譲受人に過失があるときには,債務者は,当該事由をもって譲受人に対抗することができる。
事件番号: 平成11(受)766 / 裁判年月日: 平成13年3月27日 / 結論: その他
1 加入電話契約者以外の者がいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスを利用した場合には,加入電話契約者は,情報料債務を自ら負担することを承諾しているなど特段の事情がない限り,情報提供者に対する情報料の支払義務を負わない。 2 加入電話契約者甲以外の者が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスに係…
事件番号: 平成18(受)276 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: 破棄差戻
利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領した貸金業者が,その預金口座への払込みを受けた際に貸金業の規制等に関する法律18条1項に規定する書面を債務者に交付していなかったために同法43条1項の適用を受けられない場合において,当該貸金業者が,事前に債務者に約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載した償還表を交付してい…
事件番号: 平成26(受)2344 / 裁判年月日: 平成27年6月1日 / 結論: 棄却
異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした債務者が,譲渡人に対抗することができた事由をもって譲受人に対抗することができる場合