甲銀行に対し預金債権を有していた丁の死亡により,乙,丙及び戊が当該預金債権を相続したのに,甲銀行が当該預金債権の全額を乙及び丙に払い戻したこと,乙及び丙は,戊の法定相続分相当額の預金については,これを受領する権限がなかったにもかかわらず,払戻しを受けたものであり,この払戻しが債権の準占有者に対する弁済に当たるということもできないことなど判示の事情の下においては,甲銀行が戊にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても,甲銀行には民法703条所定の「損失」が発生したものというべきである。
銀行が相続財産である預金債権の全額を共同相続人の一部に払い戻した場合について他の共同相続人にその法定相続分相当額の預金の支払をした後でなくても当該銀行には民法703条所定の「損失」が発生するものとされた事例
民法478条,民法703条,民法899条
判旨
金融機関が、受領権限のない共同相続人に対し預金の全額を払い戻した場合、真の権利者の債権を消滅させる効力が生じないとしても、金融機関には払い戻した金員相当額の「損失」が認められ、不当利得返還請求権が成立する。
問題の所在(論点)
金融機関が、真の権利者(己)に対する預金債務を依然として負担し続けている場合、受領権限のない被上告人らに払い戻したことによって、金融機関に不当利得の要件である「損失」が生じたといえるか。
規範
民法703条の不当利得返還請求における「損失」とは、必ずしも既存の債務の消滅や現実に債務の履行を完了したことを要しない。受領権限のない者に対し、弁済の効力を生じない無効な払戻しを行った場合であっても、金融機関が金員を現実に交付した以上、その時点で当該金員相当額の損失が発生したと認められ、不当利得返還請求権が成立する。
重要事実
被相続人丁の預金債権(本件預金債権)につき、共同相続人は子である己、被上告人Y1、同Y2の3名(法定相続分各3分の1)であった。しかし、被上告人らは行政書士の助言を受け、己が金銭を不要としていると誤信し、被上告人らのみで全額の払戻しを受けた。己は金融機関(上告人)に対し自己の相続分(3分の1)の支払を求めて提訴。上告人は、被上告人らに対し、己の持分に相当する金員の払戻し分について不当利得返還請求を提起した(乙事件)。
事件番号: 平成16(受)458 / 裁判年月日: 平成16年10月26日 / 結論: 棄却
甲が,乙と共に相続した預金債権のうちの乙の法定相続分に当たる部分について何らの受領権限もないのに受領権限があるものとして金融機関から払戻しを受けていながら,その払戻しに係る金員について乙が提起した不当利得返還請求訴訟において,一転して,上記払戻しは民法478条の弁済として有効であるとはいえず,乙が上記金融機関に対して乙…
あてはめ
本件払戻しのうち己の法定相続分相当額については、被上告人らに受領権限がなく、また債権の準占有者に対する弁済(民法478条)にも当たらないため、弁済としての効力はない。したがって、己の預金債権は消滅せず、上告人は依然として己に対し債務を負う。しかし、上告人が被上告人らに現金を交付した事実は動かず、この払戻しにより被上告人らが法律上の原因なく利得し、上告人は同額の金員を失っている。原審は現実に己へ弁済するまで損失が生じないとしたが、金員を交付した時点で経済的な損失は発生していると評価すべきである。
結論
上告人は、本件払戻しをした時点において、不当利得返還請求権を取得する。ただし、被上告人らは当初善意であったため、悪意となった訴状送達の日以降の利息等についてのみ返還義務を負う。
実務上の射程
無効な弁済における「損失」の発生時期を確定した。真の債権者からの請求を待たず、またその履行を完了せずとも、無権限者への交付時点で利得者に対し返還請求が可能であることを示しており、金融機関の債権回収実務における不当利得の構成を容易にする。答案上は、弁済の有効性を否定した後に、不当利得の成立を肯定する文脈で活用する。
事件番号: 平成11(受)766 / 裁判年月日: 平成13年3月27日 / 結論: その他
1 加入電話契約者以外の者がいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスを利用した場合には,加入電話契約者は,情報料債務を自ら負担することを承諾しているなど特段の事情がない限り,情報提供者に対する情報料の支払義務を負わない。 2 加入電話契約者甲以外の者が利用したいわゆるダイヤルQ2事業における有料情報サービスに係…