判旨
偽造小切手を善意無過失で取得し支払を受けた者は、小切手法上の返還義務を負わないとしても、振出名義人に対して小切手上の権利を取得するものではないため、受領した小切手金は不当利得となる。また、銀行による支払を通じて利得と損失が発生した場合、両者の間には直接の因果関係が認められる。
問題の所在(論点)
1. 偽造小切手を善意無過失・有償で取得し支払を受けた場合、民法703条の「法律上の原因」があるといえるか。 2. 支払銀行を介した支払において、振出名義人の損失と受領者の利得との間に因果関係が認められるか。
規範
1. 小切手が偽造された場合、振出名義人は小切手上の義務を負わず、偽造小切手を善意無過失で取得した者であっても振出名義人に対して小切手上の権利を取得しない。したがって、当該小切手金の受領は「法律上の原因」を欠く。 2. 金銭の利得については、特段の事情がない限り、現実に所有財産が増加したものとして利得の現存が事実上推定される。 3. 支払銀行が偽造小切手に基づき支払ったことにより、振出名義人に損失が生じ、受領者に利得が生じた場合、両者の間には不当利得返還請求(民法703条)における直接の因果関係が認められる。
重要事実
被上告人(原告)の小切手帳から訴外Dが小切手用紙を窃取し、被上告人名義を偽造して持参人払式小切手を作成した。Dはこれを上告人(被告)に直接引き渡し、上告人は支払銀行から小切手金の支払を受けた。被上告人は、上告人に対し不当利得返還請求を提起した。上告人は、自身が善意無過失で小切手を取得したこと、および対価を支払って取得したことを理由に「法律上の原因」があると主張した。
あてはめ
1. 偽造小切手の場合、振出名義人は一切の署名をしておらず小切手債務を負担しない。上告人が小切手法21条の善意取得により返還義務を免れるとしても、それは証券の占有を正当化するに過ぎず、被上告人に対する実体法上の権利を取得させるものではない。ゆえに、有償取得であっても法律上の原因はない。 2. 上告人が小切手金の支払を受けたことで所有財産が増加した以上、利得の現存は推定される。 3. 銀行の支払は、一面で被上告人の計算において損失を帰属させ、他面で上告人に利得を与えるものであるから、社会通念上、直接の因果関係があるといえる。
結論
上告人は法律上の原因なく小切手金相当額の利益を得、これにより被上告人に同額の損失を与えたものであるから、不当利得返還義務を負う。上告を棄却する。
実務上の射程
不当利得における「法律上の原因」の有無を、小切手法上の善意取得(21条)と区別して判断した重要な事例である。また、銀行実務における偽造小切手支払の処理に関し、損失と利得の相関関係を直接的に認める論理は、現代の不当利得法における「公平の観点」からの因果関係判断の基礎となっている。
事件番号: 昭和53(オ)785 / 裁判年月日: 昭和53年11月2日 / 結論: 棄却
手形債権者が手形金の弁済を受けて弁済者に手形を引渡しても、弁済者において不当利得として右弁済金の返還を求めるにあたり右手形の返還を申し出てその履行の提供をしているときは、右返還の申出が時機に遅れたものであることについての立証がない限り、民法七〇七条一項にいう証書を段滅したときにはあたらない。
事件番号: 平成26(受)1817 / 裁判年月日: 平成27年6月1日 / 結論: 破棄差戻
債務者が異議をとどめないで指名債権譲渡の承諾をした場合において,譲渡人に対抗することができた事由の存在を譲受人が知らなかったとしても,このことについて譲受人に過失があるときには,債務者は,当該事由をもって譲受人に対抗することができる。