一 金銭の交付によって生じた不当利得の利益が存しないことについては、不当利得返還請求権の消滅を主張する者が主張・立証すべきである。 二 不当利得をした者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅は、返還義務の範囲を減少させない。
一 金銭の不当利得の利益が存しないことの主張・立証責任 二 不当利得者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅と返還義務の範囲
民法703条
判旨
不当利得の返還義務者が善意である場合、現存利益の有無は悪意となった時点を基準に判断すべきであり、利得した金銭を他者に交付していても、それにより取得した返還請求権等の価値が現存する限り、返還義務は消滅しない。
問題の所在(論点)
民法703条にいう「利益の存する限度」の判断基準時はいつか。また、受領した金銭を第三者に交付した場合に、現存利益は否定されるか。
規範
1. 善意の受益者の返還義務が「利益の存する限度」(民法703条)に減縮される趣旨は、法律上の原因があると信じて利益を消費・紛失した者に、不当利得がなかった場合以上の不利益を課さない点にある。2. したがって、利益の存否は、受益者が法律上の原因がないことを認識した(悪意となった)時点を基準に判断すべきである。3. 金銭を他者に交付した場合であっても、それにより生じた他者への不当利得返還請求権等は、特段の事情がない限り額面どおりの価値を有するものと推定され、「現存利益」として認められる。
重要事実
銀行(上告人)は、顧客(被上告人)から約束手形の取立委任を受けたが、事務過誤により不渡りとなった手形が決済されたと誤認し、顧客の普通預金口座に入金処理を行った。顧客はその当日に、この誤入金分を含む1700万円の払戻しを受けた。銀行は約3時間後に過誤に気付き、顧客に返還を請求したが、顧客は既にその金を第三者(経済的に密接な関係にある人物)に交付したと主張し、利益は現存しないと争った。
あてはめ
1. 顧客は払戻しの約3時間後に銀行から請求を受けており、この時点で法律上の原因がないことを認識した(悪意となった)といえる。したがって、この時点での利益の存否を検討すべきである。2. 顧客は第三者に金銭を交付したと主張するが、仮に事実であっても、その交付は取立委任を原因とするものであり、手形の不渡りにより顧客は当該第三者に対して同額の不当利得返還請求権を取得している。3. 当該請求権は特段の事情がない限り額面どおりの価値を有すると推定される。本件では、悪意となるまでの約3時間の間に、第三者が資力を失った等の特段の事情も認められない。4. したがって、金銭そのものは手元になくとも、同価値の債権が顧客に帰属しており、1700万円全額の利益が現存していると解される。
結論
被上告人(顧客)は、悪意となった時点で利得と同額の利益を保持していたといえるため、1700万円全額の返還義務を負う。
実務上の射程
不当利得の現存利益に関するリーディングケース。金銭の利得は消費しても他の支出を免れた(支出節約)として利益の現存が事実上推定されるが、本件は「第三者への交付」があった場面でも、代位的な債権の存在により利益の現存を肯定するロジックを示した点に特徴がある。答案では、悪意への転化時期(703条から704条への移行)とセットで現存利益を論じる際に活用する。
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