恩給受給者甲が国民金融公庫(乙)からの借入金の担保に供した恩給につき国が乙にその払渡しをした後に、甲に対する恩給裁定が取り消されたとしても、乙は甲に対して恩給を担保に貸付けをすることを法律上義務付けられており、しかも恩給裁定の有効性については乙自ら審査することはできず、これを有効なものと信頼して扱わざるを得ないものであることなど、判示事情の下において、国が恩給裁定の取消しの効果が乙に及ぶとして、右払渡しに係る金員の返還を求めることは許されない。
恩給受給者が国民金融公庫からの借入金の担保に供した恩給につき国が公庫にその払渡しを完了した後に恩給裁定が取り消された場合における国の公庫に対する払渡金返還請求の許否
国民金融公庫が行う恩給担保金融に関する法律3条,民法703条
判旨
国が恩給裁定を取り消した場合であっても、裁定の有効性を信頼して義務的に融資を行った公法人に対し、長期間経過後にその遡及効を主張して受領済みの給与金の返還を求めることは、信義則上許されない。
問題の所在(論点)
恩給裁定の取消しにより給与金の受領権限が遡及的に消滅したとして、国が公庫に対し不当利得返還請求を行うことが、信義則(民法1条2項)に反し許されないか。
規範
行政上の意思表示(裁定)の取消しの遡及効が制限されるか。行政主体との関係で、相手方が裁定の有効性を信頼し、かつ法律上の義務として特定の行為を行う立場にある場合、裁定の取消しによる不利益を相手方に甘受させることが、信頼保護や公平の観点から相当といえるかを判断すべきである。具体的には、①相手方の信頼の合理性・義務性、②取消しまでの期間、③相手方が被る不利益の内容(関係書類の廃棄や債権回収の困難性等)、④国側が遡及効を主張できないことによる不都合の程度を総合考慮して決する。
重要事実
国民金融公庫(上告人)は、国(被上告人)が行ったDへの恩給裁定を信頼し、恩給担保法に基づきDに融資を行い、国から恩給給与金の払渡しを受けた。しかし、最初の払渡しから約12年後、最終払渡しから約7年後、国はDへの裁定を取り消し、公庫に対し不当利得として払渡金の返還を求めた。公庫は、完済後5年の書類保存期間経過により貸付関係書類を廃棄しており、Dらへの求償が困難な状況にあった。
あてはめ
公庫は政府の行政目的を担う公法人であるが、独立した法人として自立的経済活動を営む。公庫は恩給担保法上、恩給受給者への融資が義務付けられており、国による裁定の有効性を審査できず、これを信頼せざるを得ない立場にある(①)。本件では払渡しから裁定取消しまで7〜12年以上の長期間が経過しており、公庫が弁済の効果を確信した点に無理はない(②)。公庫は書類廃棄によりDらへの回収が不能となる著しい不利益を被る一方(③)、国側が返還を受けられない不都合は、公庫に不利益を甘受させるほど重大ではない(④)。
結論
国が裁定取消しの効果を公庫に主張して金員の返還を求めることは、信義則に照らして許されない。
実務上の射程
行政処分の取消しの遡及効が信義則により制限される場面で活用できる。特に、公的な融資制度等において、制度上、行政側の判断を信頼せざるを得ない地位にある者の信頼保護を認めた射程として重要である。
事件番号: 令和4(行ヒ)317 / 裁判年月日: 令和5年12月12日 / 結論: 破棄自判
1 公職選挙法251条の規定により遡って大阪市の議会の議員の職を失った当選人は、同市に対し、当該当選人を唯一の所属議員とする会派の行った大阪市会政務活動費の交付に関する条例(平成13年大阪市条例第25号)5条所定の政務活動に関し、不当利得返還請求権を有することはない。 2 公職選挙法251条の規定により遡って大阪市の議…
事件番号: 昭和62(オ)1057 / 裁判年月日: 昭和63年7月1日 / 結論: 破棄自判
債権者が第三者所有の不動産の上に設定を受けた抵当権が不存在である.にもかかわらず、右抵当権の実行により第三者が不動産の所有権を喪失したときは、第三者は、売却代金から弁済金の交付を受けた右債権者に対し不当利得返還請求権を有する。