一 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益については、民法第一八九条第一項の類推適用により同人に右利益の収取権が認められる余地はない。 二 第一項の運用利益が商事法定利率による利息相当額(臨時金利調整法所定の一箇年契約の定期預金の利率の制限内)であり損失者が商人であるときは、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が不当利得された財産から当然取得したであろうと考えられる収益の範囲内にあるものと認められるから、受益者は、善意のときであつても、これが返還義務を免れない。 三 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益については、社会観念上、受益者の行為の介入がなくても、損失者が右財産から当然取得したであろうと考えられる範囲において損失があるものと解すべきであり、その範囲の収益が現存するかぎり、民法第七〇三条により返還されるべきである。
一 銀行業者が不当利得した金銭を利用して得た運用利益と民法第一八九条第一項の適用の有無 二 銀行業者が不当利得した金銭によつて得た法定利率による利息相当額以内の運用利益につき返還義務があるとされた事例 三 不当利得された財産に受益者の行為が加わることによつて得られた収益についての返還義務の範囲
民法189条1項,民法703条
判旨
善意の不当利得者が金銭の運用利益を得た場合、民法189条1項の類推適用による果実収取権は認められない。社会通念上、損失者が当然取得したであろう範囲の運用利益は「利益の存する限度」に含まれ、返還義務を負う。
問題の所在(論点)
金銭の不当利得において、善意の受益者が得た運用利益が民法189条1項の類推適用により収取可能か、また民法703条の返還範囲に含まれるか。
規範
不当利得された財産に受益者の行為が介在して得られた収益について、社会観念上、受益者の行為がなくても損失者が当然に取得したであろうと考えられる範囲の利益は、損失者の「損失」に含まれる。したがって、当該利益が現存する限り、民法703条の「利益の存する限度」として返還を要する。
重要事実
破産会社Dは、被上告人(銀行)に対し債務を負担していないにもかかわらず、約539万円を弁済として支払った。銀行は、この受領した金員を運営資金として利用し、商事法定利率による利息相当の運用利益を得ていた。破産管財人である上告人は、不当利得に基づき、元本とともに善意期間中の運用利益の返還を求めた。
あてはめ
本件は金銭の返還(価格返還)であり、物の返還(原物返還)ではないため、果実収取権を定める民法189条1項を論ずる余地はない。銀行が得た運用利益は、社会通念に照らせば、受益者たる銀行の行為の介入がなくとも破産会社において当然取得したであろうと推認できる。したがって、この利益は民法703条にいう「利益の存する限度」に含まれる評価される。
結論
被上告人は、たとえ善意の受益者であったとしても、現存する運用利益について返還義務を免れない。
実務上の射程
金銭の不当利得における善意受益者の返還範囲を画した重要判例である。民法189条の類推適用を否定し、703条の「利益の存する限度」の解釈(損失との相関性)によって運用利益の返還を認めた点に特色がある。司法試験では、金銭の不当利得の返還範囲が問われた際、利息相当額の帰属を判断する基準として活用すべきである。
事件番号: 昭和29(オ)678 / 裁判年月日: 昭和31年3月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無権限者から他人の所有物を譲り受けた者が、その譲渡に権限がないことを知っていた場合、その取得は法律上の原因がない悪意の不当利得となり、利得当時の価額相当額及び利息の返還義務を負う。 第1 事案の概要:訴外D及びEは、権限がないにもかかわらず、違約損害金債務の代物弁済として、被上告人(原告)所有の大…