判旨
不法行為等に基づく損害賠償における「相当因果関係」の範囲に関し、予見不能な特別の事情により生じた損害については、債務不履行の規定(民法416条)を類推適用し、債務者がその事情を予見し、または予見し得た場合を除き、賠償責任を負わない。
問題の所在(論点)
不法行為(手形の交付行為)と、その後の連鎖的な強制執行等によって生じた営業破綻等の損害との間に相当因果関係が認められるか。特に、多数の債権者の存在という「特別の事情」が介在する場合の判断枠組みが問題となる。
規範
損害賠償の範囲について定める民法416条の規定は、不法行為による損害賠償についても類推適用される。したがって、通常生ずべき損害については当然に賠償義務を負うが、特別の事情によって生じた損害については、加害者がその事情を予見し、または予見し得た場合(予見可能性)に限って、相当因果関係が認められる。この予見可能性の有無については、被害者側が主張・立証責任を負う。
重要事実
被上告人(銀行)が、訴外Dに対し本件手形を交付した。Dの会社がこの手形に基づき上告人に対して仮差押えを執行したところ、当時上告人にはD以外の多数の債権者が存在していた。この仮差押えを契機として他の債権者らによる差押えや競売処分が連鎖的に発生し、結果として上告人は営業破綻および営業利益の喪失という多大な損害を被った。上告人は、銀行の手形交付行為とこれら一連の損害との間に相当因果関係があるとして損害賠償を請求した。
あてはめ
本件における営業破綻や利益喪失は、手形交付から通常発出する結果とは断じがたく、多数の債権者が存在し連鎖的な執行を招いたという「特別の事情」に基づく損害である。このような特別損害について相当因果関係を認めるには、銀行において手形交付当時、右特別事情の継起を予見していたか、または予見し得べき状況にあったことが必要である。本件において、上告人は銀行側の予見可能性を主張・立証できていないため、当該損害は相当因果関係の範囲外であると評価される。
結論
被上告銀行の手形交付行為と、上告人の営業破綻等による損害との間には相当因果関係が認められない。したがって、銀行は損害賠償責任を負わない。
実務上の射程
不法行為における相当因果関係の範囲に民法416条が類推適用されることを明示した重要判例である。答案上では、特殊な事情(被害者の既往症、多数債権者の存在、異常な介在事由等)により損害が拡大した場合に、本件を引いて「特別の事情による損害」とし、加害者の予見可能性の有無を検討する枠組みとして用いる。
事件番号: 昭和27(オ)823 / 裁判年月日: 昭和33年6月3日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】偽造小切手を善意無過失で取得し支払を受けた者は、小切手法上の返還義務を負わないとしても、振出名義人に対して小切手上の権利を取得するものではないため、受領した小切手金は不当利得となる。また、銀行による支払を通じて利得と損失が発生した場合、両者の間には直接の因果関係が認められる。 第1 事案の概要:被…
事件番号: 平成26(受)1817 / 裁判年月日: 平成27年6月1日 / 結論: 破棄差戻
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