「公訴事実記載の日時には犯行場所にはおらず,自宅ないしその付近にいた」旨のアリバイ主張が明示されたが,それ以上に具体的な主張は明示されず,裁判所も釈明を求めなかったなどの本件公判前整理手続の経過等に照らすと,前記主張の内容に関し弁護人が更に具体的な供述を求める行為及びこれに対する被告人の供述を刑訴法295条1項により制限することはできない。 (補足意見がある。)
公判前整理手続で明示された主張に関しその内容を更に具体化する被告人質問等を刑訴法295条1項により制限することはできないとされた事例
刑訴法295条1項,刑訴法316条の17第1項
判旨
公判前整理手続で明示されなかった新たな主張に沿った被告人の供述を求める行為(質問)や供述は、主張明示義務違反(刑訴法316条の17第1項)が認められ、かつ、その供述を許すことが同手続の意味を失わせるものと認められる場合には、刑訴法295条1項により制限され得るが、本件のように既になされた主張の具体化にとどまる場合は制限できない。
問題の所在(論点)
公判前整理手続終了後、同手続で明示されていなかった具体的な主張に沿った被告人への質問および被告人の供述を、刑訴法295条1項により制限することができるか。
規範
公判前整理手続終了後の新たな主張を制限する明文規定はないため、新たな主張に沿った供述を当然に制限することはできない。もっとも、①同手続における予定主張の明示状況、②新たな主張がされるに至った経緯、③主張内容等の諸般の事情を総合考慮し、主張明示義務(刑訴法316条の17第1項)に違反し、かつ、その質問や供述を許すことが同手続の意味を失わせるものと認められる場合(例:裁判所の求釈明に反し具体的内容を秘匿した場合等)には、事項の重要性も踏まえ、刑訴法295条1項により制限され得る。
重要事実
被告人は詐欺罪で起訴され、公判前整理手続において「犯行当時は自宅ないし付近にいた」とのアリバイを主張した。裁判所はそれ以上の釈明を求めず、「犯人性」を争点として確認した。公判の被告人質問において、被告人が「知人宅に行っていた」と具体的状況を供述し始め、弁護人が更なる詳細を求めたところ、検察官が「公判前整理手続での主張以外で関連性がない」と異議を申し立て、第1審裁判所がこれを容れて質問等を制限した。一方、被告人は最終陳述で同内容を具体的に述べており、こちらは制限されなかった。
あてはめ
本件の質問等は、公判前整理手続で既に明示されていた「自宅ないし付近にいた」というアリバイ主張に関し、具体的な詳細を求めるものにすぎない。したがって、同手続の経過や供述内容に照らせば、刑訴法295条1項の「事件に関係のない事項」ではない。また、被告人側の主張明示義務違反や、同手続の意味を失わせるものとも認められない。よって、本件質問等を制限することは許されず、第1審の措置は同条項の解釈適用を誤った違法なものである。もっとも、最終陳述で制限なく具体的アリバイが述べられているため、判決に影響を及ぼす違法とはいえない。
結論
被告人の供述制限は原則として許されないが、主張明示義務に著しく違反し手続の趣旨を没却する特段の事情があれば刑訴法295条1項により制限可能である。本件の制限は違法であるが、判決への影響はないため上告棄却。
実務上の射程
判決文からは不明(ただし、弁護人による追加主張の速やかな開示や、裁判所による同手続段階での十分な釈明が重要である旨が補足意見で示唆されている)。
事件番号: 昭和25(あ)2060 / 裁判年月日: 昭和27年3月25日 / 結論: 棄却
刑訴五二条は、公判調書に記載あるもののみについて反証を許さない趣旨であつて、調書に記載なきものについては、ただそれだけで手続がなされなかつたということは出来ない。