記録によつてみると被告人は第一審において犯罪事実を自白し詐欺の犯意を否認しなかつたのである。それゆえ控訴審において被告人は詐欺の犯意を否認し弁護人から所論証人三名を申請して事実の取調を求めたとしてもそれは控訴記録及び第一審で取り調べられた証拠に現われていない事実についての証拠の取調請求であるから結局刑訴第三九三条一項本文にいわゆる職権による事実の取調を求めたにすぎないのである(原審公判調書にも弁護人は職権を以て(一)証人A(二)同B(三)同Cの各取調ありたい旨述べたと記載されている)。
第一審で取調べた証拠に現われていない事実について弁護人のした証人申請の性質
刑訴法393条1項,刑訴法392条
判旨
控訴審において、第一審の記録に現れていない事実に関する証拠調べの請求は、職権発動を促すものにすぎず、裁判所がこれを却下しても訴訟手続の法令違反や憲法37条2項違反には当たらない。
問題の所在(論点)
控訴審において第一審の記録等に現れていない事実についての証拠調べ請求がなされた場合、これを裁判所が却下することが、刑訴法上の証拠調べ手続および憲法37条2項が保障する被告人の証人審問権に違反するか。
規範
控訴審における証拠調べは、刑訴法393条1項本文の趣旨に照らし、原則として職権による事実の取調である。裁判所が必要と認めない証人まで職権で喚問する義務はなく、証拠請求を却下しても憲法37条2項前段(証人審問権)には違反しない。
重要事実
詐欺被告事件において、被告人は第一審では犯罪事実を自白し、犯意を否認していなかった。控訴審に至り、被告人は一転して詐欺の犯意を否認し、弁護人がその立証のために第一審の記録にない新事実に関する証人3名の取調を請求した。原審はこの請求を却下したため、弁護人が憲法違反および訴訟手続違反を理由に上告した。
あてはめ
被告人が第一審で犯意を否認していなかった以上、控訴審での証人請求は「第一審で取り調べられた証拠に現れていない事実」に関するものである。これは、裁判所の職権発動を促す性質のものにすぎない。原審の公判調書においても、弁護人は職権による取調を求めたと記載されている。裁判所が必要でないと判断した証人まで喚問する義務はないため、請求の却下に手続上の違法はない。また、憲法の証人審問権は無制限な喚問を保障するものではなく、必要性のない証人を却下しても憲法違反とはならない。
結論
被告側の証拠請求を却下した原判決に、手続違反や憲法違反は認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
控訴審における証拠調べの職権主義的性格を確認した判例である。答案上は、控訴審での証拠調べが限定的であることや、刑訴法393条に基づく裁判所の裁量の範囲を説明する際に活用できる。特に、事後審構造における証拠請求の法的性質(職権発動を促すもの)を論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和26(れ)1587 / 裁判年月日: 昭和26年11月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人に証人尋問の機会を既に第一審において十分に与えている場合には、控訴審で重ねて尋問の機会を与えなくても憲法37条2項に反しない。 第1 事案の概要:被告人の弁護人は、控訴審(原審)において証人Aを再度審問する機会が与えられなかったことが憲法37条2項に違反すると主張して上告した。しかし、当該証…