刑訴五二条は、公判調書に記載あるもののみについて反証を許さない趣旨であつて、調書に記載なきものについては、ただそれだけで手続がなされなかつたということは出来ない。
刑訴第五二条の法意
刑訴法52条,旧刑訴法64条
判旨
憲法37条2項は裁判所が必要と認めて採用した証人に限定して被告人の尋問権を保障するものであり、公判調書に記載がない事実のみを以て直ちに反対尋問の機会が奪われたと解することはできない。
問題の所在(論点)
裁判所が必要と認めない証人についても憲法37条2項に基づく反対尋問の機会を保障すべきか。また、公判調書に反対尋問の記載がない場合、直ちに手続違背があったと認められるか。
規範
憲法37条2項の趣旨は、裁判所が必要と認めて尋問を許可した証人について、被告人に直接尋問する機会を与えなければならないというものであり、裁判所が必要と認めないものまで証人として採用し、被告人に反対尋問の機会を与えなければならないものではない。また、公判調書の記載については、刑事訴訟法52条に基づき、調書に記載がある事項のみに強い証明力が認められるのであり、調書に記載がないという事実のみをもって直ちに当該手続(反対尋問等)がなされなかったと断定することはできない。
重要事実
被告人Aは、第一審の証拠調べ手続において、証人B等の尋問に関し、被告人に反対尋問の機会が与えられなかったとして、憲法37条2項違反を理由に上告した。しかし、第一審公判調書を確認したところ、裁判所が被告人に反対尋問の機会を与えなかったという形跡は認められなかった。また、同一公判期日に取り調べられた他の証人Cについては、被告人の弁護人が詳細に反対尋問を行っていた事録が残っていた。弁護側は、調書に反対尋問の記載がないことを根拠に権利侵害を主張した。
あてはめ
本件において、被告人側は反対尋問の機会がなかったと主張するが、公判調書上、裁判所が不当に反対尋問を拒否した事実は認められない。むしろ、同一期日に尋問された他の証人に対しては弁護人が詳細な反対尋問を行っており、被告人の防御権が組織的に侵害された状況にはない。刑訴法52条は調書の記載事項について反証を許さないとするが、記載がない事項について直ちに「不実施」と擬制するものではないため、調書上の欠落のみを理由に憲法違反を導くことはできない。
結論
本件における証拠調べ手続に憲法37条2項違反や法令違背の事由は認められず、上告を棄却すべきである。
実務上の射程
刑事被告人の証人尋問権(反対尋問権)の限界が、裁判所の証人採用の裁量権と連動していることを確認する際に用いる。また、公判調書の証明力(刑訴法52条)の消極的側面、すなわち「記載がない=手続未実施」とは必ずしもならないという限界を示す文脈で有用である。
事件番号: 昭和28(あ)2453 / 裁判年月日: 昭和30年2月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】憲法37条2項前段は、裁判所に対し被告人が請求したすべての証人を取り調べる義務を課すものではなく、証拠調べの採否は裁判所の裁量に委ねられる。 第1 事案の概要:被告人が第一審において重要な立証のために証人尋問を請求したが、第一審裁判所はその請求を却下した。その後、原審(控訴審)は量刑不当を理由に第…