刑訴第二九一条による手続が終つた後、証拠調に入る前に裁判官が被告人に対し公訴事実について質問しても、必ずしも違法であるとはいえない。 少数意見がある。
証拠調前においてする被告人に対する公訴事実に関する質問の適否
刑訴法291条,刑訴法292条,刑訴法311条,刑訴規則196条,刑訴規則197条
判旨
第一審において、証拠調べに先立ち裁判長が被告人に対し犯罪事実について詳細な尋問を行い、結果として自白を引き出した審理手続は、現行刑事訴訟法の精神に沿わないきらいはあるものの、直ちに違法とは断定できない。
問題の所在(論点)
証拠調べに先立って裁判長が被告人に対し犯罪事実に関する詳細な質問を行い、事実上の自白を得るような審理の順序・方法が、現行刑事訴訟法に違反するか。
規範
刑事訴訟法における審理の順序や方法は、当事者主義的立証構造を基本とする現行法の精神に沿うべきものであるが、裁判所の訴訟指揮権に基づく審理の推移が直ちに違法となるか否かは、当該手続が公正な裁判の原則を実質的に侵害し、被告人の防禦に実質的な不利益を生じさせたか否かにより判断される。
重要事実
詐欺被告事件の第一審第一回公判において、被告人は起訴状記載の主要な犯罪事実を否認した。しかし、裁判長は証拠調べに入る前に、被告人の身上関係のみならず、犯行の認否や共謀の有無について詳細な尋問(被告人質問)を実施した。その過程で被告人は犯罪事実を認める供述(自白)に至り、その後、他の相被告人に対しても同様の尋問が行われた後に証拠調べが開始された。弁護人は、この審理順序が旧刑事訴訟法的な職権主義的運用であり、立証責任の転嫁を招く不当なものであるとして上告した。
あてはめ
本件第一審の審理経過をみると、冒頭手続の直後に詳細な被告人質問を行い、そこで得られた自白を前提とするかのような順序で審理が進められている。このような方法は、当事者の立証を先行させるべき現行刑事訴訟法の精神に照らせば「添わぬきらいがないではない」といえる。しかし、裁判長には広範な訴訟指揮権が認められており、本件の尋問が直ちに公判手続を無効とするほどの重大な違法(刑訴法405条の事由等)を構成するとまでは断定できない。
結論
本件審理の順序・方法は刑事訴訟法の精神に沿わない点があるが、直ちに違法とは断定できず、上告を棄却する。
実務上の射程
当事者主義的構造(刑訴法298条等)に反するような職権的な審理順序(証拠調べ前の実質的尋問)に対し、多大なる疑念を抱きつつも、訴訟指揮権の範囲内として直ちに違法とはしない。ただし、少数意見が「公正な裁判(Fair trial)」の観点から強く批判している点は、公判前整理手続を経る現代の運用において適正手続を論じる際の視点として重要である。
事件番号: 昭和25(あ)3334 / 裁判年月日: 昭和26年12月20日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】逮捕手続の違憲性は原判決の違法を直接構成するものではなく、適法な上告理由とはならない。また、第一審において対質の機会が与えられている以上、証拠調べ手続に違憲の過誤があるとは認められない。 第1 事案の概要:被告人が逮捕手続の違憲および証人Aに対する尋問手続の不備(対質の機会の欠如等)を主張して上告…