非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことはできない。
非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことの可否
会社法785条1項,会社法786条2項
判旨
非上場会社における株式買取請求(会社法785条1項)に関し、裁判所が収益還元法を用いて買取価格を決定する場合、非流動性ディスカウントを行うことはできない。
問題の所在(論点)
非上場会社の株式買取価格の決定(会社法786条2項)において、収益還元法を用いる場合に、市場性がないことを理由とする減価(非流動性ディスカウント)を行うことができるか。
規範
裁判所は、会社組織に本質的変更をもたらす行為に反対する株主に対し、企業価値を適切に分配し会社からの退出の機会を与えるべきという制度趣旨に従い、合理的な裁量によって「公正な価格」を形成すべきである。もっとも、一定の評価手法を採用した場合、その手法の性格上、考慮することが相当でない要素を考慮して価格を決定することは許されない。収益還元法は将来の期待利益を現在価値に還元する手法であり、市場価格との比較という要素を含まないため、市場性のなさを理由とする減価を行うことは、同手法の論理的枠組み及び買取請求権の趣旨に照らし相当ではない。
重要事実
非上場会社であるA社は、相手方との吸収合併を決定した。これに反対した株主(抗告人)は、A社に対し会社法785条1項に基づき株式買取請求権を行使し、価格決定の申立てを行った。鑑定人は収益還元法を採用して株式価値を算定したが、同時に「非上場株式には市場性がない」ことを理由に、算定額から25%の非流動性ディスカウント(減価)を行い、1株80円が妥当であるとの意見を述べた。原審はこの鑑定結果に基づき買取価格を決定したため、抗告人が許可抗告した。
事件番号: 令和4(許)8 / 裁判年月日: 令和5年5月24日 / 結論: 棄却
会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続において裁判所が上記売買価格を定める場合に、上記譲渡制限株式の評価額の算定過程において上記譲渡制限株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれないなど判示の事情の下においては、DCF法によって算定された上記評価額から非流動性ディスカウント(非上場会社…
あてはめ
まず、株式買取請求権は、多数決で組織再編を可能にする反面、反対株主に「企業価値を適切に分配」して退出させる制度である。次に、本件で採用された収益還元法は、類似会社比準法等とは異なり、評価の仕組み自体に「市場における取引価格との比較」という要素が含まれていない。それにもかかわらず、市場性がないことを理由に減価を行うことは、収益還元法の性格と矛盾し、反対株主への適切な価値分配という制度趣旨にも反するといえる。したがって、本件において25%の減価を行った原審の判断は、考慮すべきでない要素を考慮したものであり、相当ではない。
結論
原決定を破棄し、非流動性ディスカウントを行わない計算に基づき、買取価格を1株106円と決定する。
実務上の射程
非上場株式の買取価格決定における「公正な価格」の算定について、収益還元法を採用する場合の減価の可否を明示した。
事件番号: 平成23(許)21 / 裁判年月日: 平成24年2月29日 / 結論: 破棄差戻
1 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,株式移転により組織再編による相乗効果その他の企業価値の増加が生じない場合には,当該株式買取請求がされた日における,株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうが,それ以外の場合には,株式移…
事件番号: 平成22(許)30 / 裁判年月日: 平成23年4月19日 / 結論: 棄却
1 会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有し…
事件番号: 平成22(許)47 / 裁判年月日: 平成23年4月26日 / 結論: 破棄差戻
会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したで…
事件番号: 令和4(許)11 / 裁判年月日: 令和5年10月26日 / 結論: 破棄自判
吸収合併消滅株式会社の株主が吸収合併をするための株主総会に先立って当該吸収合併に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を上記会社に送付した場合において、次の⑴及び⑵の事実関係の下では、上記株主が上記会社に対して上記委任状を送付したことは、会社法785条2項1号イにいう、吸収合併等をするため…