1 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,株式移転により組織再編による相乗効果その他の企業価値の増加が生じない場合には,当該株式買取請求がされた日における,株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうが,それ以外の場合には,株式移転計画において定められていた株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいう。 2 相互に特別の資本関係がない会社間において,株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続により株式移転の効力が発生した場合には,当該株主総会における株主の合理的な判断が妨げられたと認めるに足りる特段の事情がない限り,当該株式移転における株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率は公正なものである。 3 株式移転計画に定められた株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率が公正なものと認められる場合には,株式移転により企業価値の増加が生じないときを除き,株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」を算定するに当たって参照すべき市場株価として,株式買取請求がされた日における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることは,裁判所の合理的な裁量の範囲内にある。 (1〜3につき補足意見がある。)
1 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」の意義 2 株式移転における株式移転設立完全親会社の株式等の割当てに関する比率が公正なものとされる場合 3 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」を算定するに当たって参照すべき市場株価として,株式買取請求がされた日における市場株価やこれに近接する一定期間の市場株価の平均値を用いることが,裁判所の裁量の範囲内にあるとされる場合
(1〜3につき)会社法773条1項6号,(1,3につき)会社法806条1項,会社法807条2項
判旨
相互に特別の資本関係がない会社間の株式移転において、適正な情報開示と株主総会承認等の公正な手続を経た場合、特段の事情がない限り株式移転比率は公正と解される。この場合、反対株主の買取価格(公正な価格)は、原則として株式買取請求日における市場株価等を基礎に算定すべきである。
問題の所在(論点)
会社法806条1項に基づく株式買取請求における「公正な価格」の意義、および相互に資本関係のない対等な企業間の組織再編において、合意された比率を否定して公表前の株価を基準とすることの是非が問題となる。
事件番号: 平成22(許)30 / 裁判年月日: 平成23年4月19日 / 結論: 棄却
1 会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有し…
規範
1.「公正な価格」とは、原則として、株式移転比率が公正であれば、株式買取請求日においてその株式が有していると認められる価格をいう。2.相互に特別の資本関係がない会社間において、情報の適切な開示や株主総会決議等の一般に公正と認められる手続が執られた場合、株主の合理的判断が妨げられたと認めるに足りる「特段の事情」がない限り、株式移転比率は公正なものとみる。3.市場株価が存在する場合、価格算定の基礎資料としてこれを用いることは合理的であり、買取請求日またはその近接期間の平均値を用いることは裁判所の合理的な裁量の範囲内である。
重要事実
東証一部上場会社であったA社と抗告人(旧B社)は、相互に特別の資本関係がない状態で経営統合に合意し、株式移転比率(A株1:新会社株0.9)を定めた株式移転計画を作成・公表した。A社の株主総会で本件株式移転は承認されたが、反対株主(相手方)は公正な価格での買取を請求した。原審は、計画公表後にA社の株価が急落したことを理由に、比率が企業価値を適切に反映していないとして、公表前の株価を基に価格を算定した。
あてはめ
本件ではA社と抗告人間に特別な資本関係はなく、株主総会決議等の公正な手続を経ており、情報開示に問題があったともうかがわれない。株価の下落やその推移は様々な市場要因による可能性があり、直ちに株主の合理的判断が妨げられた「特段の事情」には当たらない。したがって、本件株式移転比率は公正とみるべきであり、公表後の市場株価にはこの公正な比率が織り込まれているといえる。ゆえに、公表前の株価を基準とした原審の判断は、算定の基礎となる価格の捉え方を誤った法令違反がある。
結論
原決定を破棄し、更なる審理のため本件を原審(東京高裁)に差し戻す。
実務上の射程
対等な会社間の組織再編において、手続的公正性が確保されている限り、裁判所は当事者が合意した比率や市場の評価を尊重すべき(市場価格優先)とする射程を持つ。答案上は、MBOのような利益相反状況がない場合には、手続の適正さから比率の公正さを導き、買取請求日時点の市場価格を基準とする論法として用いる。
事件番号: 平成22(許)47 / 裁判年月日: 平成23年4月26日 / 結論: 破棄差戻
会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したで…
事件番号: 平成26(許)39 / 裁判年月日: 平成27年3月26日 / 結論: 破棄自判
非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことはできない。
事件番号: 平成23(許)7 / 裁判年月日: 平成24年3月28日 / 結論: 棄却
1 振替株式について会社法116条1項に基づく株式買取請求を受けた株式会社が,同法117条2項に基づく価格の決定の申立てに係る事件の審理において,同請求をした者が株主であることを争った場合には,その時点で既に当該株式について振替機関の取扱いが廃止されていたときであっても,その審理終結までの間に社債等振替法154条3項所…
事件番号: 令和4(許)8 / 裁判年月日: 令和5年5月24日 / 結論: 棄却
会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続において裁判所が上記売買価格を定める場合に、上記譲渡制限株式の評価額の算定過程において上記譲渡制限株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれないなど判示の事情の下においては、DCF法によって算定された上記評価額から非流動性ディスカウント(非上場会社…