会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいう。 (補足意見及び反対意見がある。)
吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」の意義
会社法785条1項,会社法786条2項
判旨
会社法785条1項に基づき、株式交換に反対する株主が請求する「公正な価格」とは、原則として、株式買取請求がされた日における、株式交換契約等を承認する旨の決議がされることがなければその株式が有したであろう価格(ナカリセバ価格)をいう。
問題の所在(論点)
株式交換により企業価値が毀損される場合において、会社法785条1項にいう株式の「公正な価格」を算定するための基準日および算定手法は如何にあるべきか。
規範
反対株主に「公正な価格」での株式買取請求権が付与された趣旨は、反対株主に退出の機会を与えるとともに、組織再編がなされなかった場合と経済的に同等の状況を確保し、かつ、シナジー等の企業価値増加が生じる場合にはこれを適切に分配することで、株主の利益を保障することにある。 したがって、組織再編により企業価値の増加が生じない場合、株式買取請求に係る「公正な価格」は、原則として、当該株式買取請求がされた日における、当該決議がなければその株式が有したであろう価格(ナカリセバ価格)をいうと解するのが相当である。
重要事実
1. 相手方(株式交換完全子会社)は、A社(株式交換完全親会社)との株式交換決議を平成20年8月28日に行い、反対株主である抗告人らは期間内に買取請求を行った。 2. 本件株式交換の公表後、市場株価は下落し、上場廃止直前には公表直前の約54%まで低下した。下落の主因は本件株式交換による企業価値の毀損であったが、マクロ経済等の市場要因も影響していた。 3. 原審は、効力発生日を基準日とし、そこから株式交換の影響を排除した客観的価値を算定すべきとして、回帰分析により市場要因のみを補正した価格を「公正な価格」と定めた。
事件番号: 平成22(許)30 / 裁判年月日: 平成23年4月19日 / 結論: 棄却
1 会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジー(組織再編による相乗効果)その他の企業価値の増加が生じない場合に,同項所定の消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,吸収合併契約等を承認する旨の株主総会の決議がされることがなければその株式が有し…
あてはめ
1. 基準日について:本件株式交換は企業価値を毀損するものであり、シナジーによる増加が生じない事例である。この場合、反対株主の利益保障の観点からは、組織再編の影響を受けない「ナカリセバ価格」を確保すべきである。そのためには、効力発生日ではなく「株式買取請求がされた日」を基準日とすべきである。 2. 算定手法について:上場株式のナカリセバ価格算定にあたり、公表前の市場株価を参照し、公表から買取請求日までの「一般的な市場の価格変動要因」を補正して算出することは、裁判所の合理的な裁量の範囲内といえる。これは買取請求期間中に上場廃止されても同様である。 3. 原審の評価:原審が効力発生日を基準日として価格を算定した点には、法令の違反がある。
結論
本件株式買取請求における「公正な価格」は、効力発生日ではなく、各株主が買取請求をした日を基準としたナカリセバ価格によって算定されるべきである。原決定を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
本判決は、株式買取請求権の行使時期が複数にわたる場合、原則として各請求日ごとに価格を算定すべきことを示唆している(田原補足意見参照)。また、企業価値が減少する組織再編(ディスカウント案件)における「公正な価格」の意義を明確にした点で実務上重要である。
事件番号: 平成23(許)21 / 裁判年月日: 平成24年2月29日 / 結論: 破棄差戻
1 株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求に係る「公正な価格」は,原則として,株式移転により組織再編による相乗効果その他の企業価値の増加が生じない場合には,当該株式買取請求がされた日における,株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有したであろう価格をいうが,それ以外の場合には,株式移…
事件番号: 令和4(許)8 / 裁判年月日: 令和5年5月24日 / 結論: 棄却
会社法144条2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定の手続において裁判所が上記売買価格を定める場合に、上記譲渡制限株式の評価額の算定過程において上記譲渡制限株式に市場性がないことが考慮されていることはうかがわれないなど判示の事情の下においては、DCF法によって算定された上記評価額から非流動性ディスカウント(非上場会社…
事件番号: 平成26(許)39 / 裁判年月日: 平成27年3月26日 / 結論: 破棄自判
非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウント(当該会社の株式には市場性がないことを理由とする減価)を行うことはできない。
事件番号: 平成23(許)7 / 裁判年月日: 平成24年3月28日 / 結論: 棄却
1 振替株式について会社法116条1項に基づく株式買取請求を受けた株式会社が,同法117条2項に基づく価格の決定の申立てに係る事件の審理において,同請求をした者が株主であることを争った場合には,その時点で既に当該株式について振替機関の取扱いが廃止されていたときであっても,その審理終結までの間に社債等振替法154条3項所…