1 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,損害賠償額を算定するに当たり,上記の遺族補償年金につき,その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。 2 被害者が不法行為によって死亡した場合において,その損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受け,又は支給を受けることが確定したときは,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,その塡補の対象となる損害は不法行為の時に塡補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整をすることが相当である。
1 不法行為によって死亡した被害者の損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受けるなどした場合に,上記の遺族補償年金との間で損益相殺的な調整を行うべき損害 2 不法行為によって死亡した被害者の損害賠償請求権を取得した相続人が労働者災害補償保険法に基づく遺族補償年金の支給を受けるなどしたとして損益相殺的な調整をするに当たって,損害が塡補されたと評価すべき時期
(1,2につき)民法709条,労働者災害補償保険法16条 (2につき)民法412条
判旨
遺族補償年金は逸失利益等の消極損害と同性質で相互補完性を有するため、遅延損害金ではなく逸失利益の元本から控除すべきであり、原則として不法行為時に損害が填補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきである。
問題の所在(論点)
労災保険法に基づく遺族補償年金の給付額を損益相殺的に控除する際、(1)消極損害の「元本」と「遅延損害金」のいずれから控除すべきか、(2)不法行為時と給付時のいずれの時点で損害が填補されたとみなすべきか。
規範
被害者の死亡による損害賠償請求において、相続人が遺族補償年金を受給した場合、(1)損益相殺の対象は、保険給付による填補対象損害と同性質で相互補完性を有する「消極損害の元本」に限られ、目的の異なる遅延損害金は含まれない。また、(2)損益相殺の時期については、支給が著しく遅滞するなどの特段の事情がない限り、不法行為の時に填補されたものと法的に評価して調整を行う。
重要事実
システムエンジニアとして勤務していたAは、長時間労働等の心理的負荷により精神障害を発症し、過度の飲酒による急性アルコール中毒で死亡した。被上告人(会社)は安全配慮義務違反(使用者責任)に基づき、Aの相続人である上告人らに対し損害賠償義務を負う。上告人らは労災保険法に基づき、葬祭料および遺族補償年金の支給を受け、あるいは支給が確定していた。賠償額の算定にあたり、これら年金給付をどの範囲で、どの時点の損害から控除すべきかが争点となった。
あてはめ
(1)遺族補償年金は遺族の被扶養利益の喪失を填補するものであり、逸失利益等の消極損害と同性質・相互補完的である。一方、遅延損害金は履行遅滞を理由とする賠償であり目的が異なるため、消極損害の元本との間で調整すべきである。(2)年金は被扶養利益の喪失の現実化に対応して支給される制度であり、支給分については当該利益の喪失が生じなかったと評価できる。損害算定の法的安定性と公平の観点から、特段の事情がない限り、不法行為時に填補されたと擬制するのが相当である。
結論
遺族補償年金は逸失利益の元本との間で損益相殺的な調整を行うべきであり、不法行為時に填補されたものとみなして賠償額を算定する。本件では特段の事情はないため、原審の控除計算は正当である。
実務上の射程
人身損害における損益相殺の計算方法を確立した大法廷判決。答案上は、まず給付の同質性を指摘して控除対象を「元本」に特定し、次に「不法行為時填補説」に基づき、遅延損害金発生前の元本から直接差し引く計算過程を示す際に用いる。過去の小法廷判決を変更した点にも留意する。
事件番号: 昭和63(オ)1749 / 裁判年月日: 平成5年3月24日 / 結論: その他
一 不法行為と同一の原因によつて被害者又はその相続人が第三者に対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合は、当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。 二 地方公務員等共済組合法(昭和六〇年法律第…