一 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各障害年金額を逸失利益として請求することができる。 二 障害基礎年金及び障害厚生年金についてそれぞれ加給分を受給している者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各加給分額を逸失利益として請求することはできない。 三 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として遺族基礎年金及び遺族厚生年金の受給権を取得したときは、当該相続人がする損害賠償請求において、支給を受けることが確定した右各遺族年金は、財産的損害のうちの逸失利益から控除すべきである。
一 不法行為により死亡した者の相続人が被害者の得べかりし障害基礎年金及び障害厚生年金を逸失利益として請求することの可否 二 不法行為により死亡した者の相続人が被害者の得べかりし障害基礎年金及び障害厚生年金についての各加給分を逸失利益として請求することの可否 三 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合にその相続人がする損害賠償請求において当該相続人が受給権を取得した遺族基礎年金及び遺族厚生年金を控除すべき損害の費目
国民年金法30条,厚生年金保険法47条,民法709条,国民年金法35条1号,厚生年金保険法53条1号,民法896条,国民年金法33条の2,厚生年金保険法50条の2,国民年金法37条,厚生年金保険法58条
判旨
障害年金の受給権者が死亡した場合、基本部分の逸失利益性は認められるが、加給分は社会保障的性格が強く存続も不確実なため否定される。また、相続人が受領した遺族年金は、損益相殺として逸失利益の範囲内でのみ控除できる。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求において、①障害年金の本体および加給分に逸失利益性が認められるか、②受領した遺族年金を損益相殺として控除できる範囲(損害項目の対応関係)がどこまで認められるか。
規範
1. 障害年金(基本部分)は保険料拠出の対価的性格を有するため、受給権者の死亡による逸失利益性が認められる。 2. 一方、子や配偶者の加給分は、生計維持関係に基づく社会保障的性格が強く、婚姻・離婚等の事由により存続が不確実なため、逸失利益性は認められない。 3. 遺族年金と損害賠償との調整(損益相殺)は、財産的損害のうち「逸失利益」の範囲に限り行われ、これを超える額を慰謝料等の他の損害項目から控除することはできない。
重要事実
障害年金(1級)を受給していた亡Iが、医師の過失による医療事故で死亡した。亡Iには障害基礎年金(子の加給分を含む)と障害厚生年金(妻の加給分を含む)の受給権があった。相続人である妻B1らは、加害者に対し逸失利益等を含む損害賠償を請求。妻B1は亡Iの死亡に伴い遺族年金を受給し始めたが、この遺族年金がどの範囲で損益相殺の対象となるかが争われた。
あてはめ
①について、障害年金本体は拠出性があるため逸失利益となるが、加給分は受給権者と一定の関係にある者の存否に依拠し、かつ本人の意思で終了し得る事由(離婚等)があるため、確実な得べかりし利益とは評価できない。 ②について、遺族年金は死亡によって生じる逸失利益を補填する性質を持つ。したがって、一審原告B1が取得した損害賠償請求権のうち、相続した「逸失利益」分(約215万円)については、確定した遺族年金(約714万円)を控除できるが、それを上回る分を「慰謝料」や「その他の損害」から控除することは許されない。
結論
障害年金の基本部分は逸失利益となるが、加給分は含まれない。遺族年金の控除は、逸失利益の額を限度として行われる。
実務上の射程
年金の逸失利益性については、老齢年金だけでなく障害年金(本体)にも及ぶことを明示した。答案作成上は、損益相殺の場面で「損害の同質性」を厳格に要求し、逸失利益と慰謝料を峻別する際の有力な根拠となる。
事件番号: 昭和48(オ)813 / 裁判年月日: 昭和50年10月21日 / 結論: 棄却
地方公務員等共済組合法に基づく退職年金は、当該公務員本人及びその収入に依存する家族に対する生活保障のみならず損失補償の性格を有する。