一 不法行為と同一の原因によつて被害者又はその相続人が第三者に対して損害と同質性を有する利益を内容とする債権を取得した場合は、当該債権が現実に履行されたとき又はこれと同視し得る程度にその存続及び履行が確実であるときに限り、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。 二 地方公務員等共済組合法(昭和六〇年法律第一〇八号による改正前のもの)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為によつて死亡した場合に、その相続人が被害者の死亡を原因として同法の規定に基づく遺族年金の受給権を取得したときは、支給を受けることが確定した遺族年金の額の限度で、これを加害者の賠償すべき損害額から控除すべきである。 (一、二につき反対意見がある。)
一 不法行為と同一の原因によつて被害者又はその相続人が第三者に対して取得した債権の額を加害者の賠償額から控除することの要否及びその範囲 二 地方公務員等共済組合法(昭和六〇年法律第一〇八号による改正前のもの)の規定に基づく退職年金の受給者が不法行為によつて死亡した場合にその相続人が被害者の死亡を原因として受給権を取得した同法の規定に基づく遺族年金の額を加害者の賠償額から控除することの要否及びその範囲
民法709条,地方公務員等共済組合法(昭和60年法律第108号による改正前のもの)78条,地方公務員等共済組合法(昭和60年法律第108号による改正前のもの)93条
判旨
不法行為により死亡した被害者の相続人が遺族年金を受給する場合、損益相殺として控除できるのは、支給を受けることが確定した年金額に限られる。将来支給される予定の未確定な年金額については、存続の確実性を欠くため、損害額から控除することはできない。
問題の所在(論点)
被害者の相続人が取得した遺族年金受給権が、不法行為に基づく損害賠償額から差し引かれる「利益」に含まれるか。特に、将来支給される予定の未確定な年金額を控除の対象とできるかが問題となる。
規範
不法行為の損害賠償制度は被害者の不利益を補填し回復させることを目的とする。被害者や相続人が同一の原因により利益を受ける場合、損害と利益に同質性があれば損益相殺的な調整を図るべきだが、その範囲は利益によって損害が現実に補填されたといえる範囲に限られる。したがって、相続人が取得した債権を損害額から控除できるのは、当該債権が現実に履行された場合、またはこれと同視し得る程度に存続及び履行が確実である場合に限られる。
事件番号: 昭和47(オ)645 / 裁判年月日: 昭和50年10月24日 / 結論: その他
不法行為により死亡した国家公務員の給与、国家公務員等退職手当法による退職手当、国家公務員共済組合法による退職給付の受給利益喪失による損害賠償債権を相続した者が、右公務員の死亡により遺族に給付される国家公務員等退職手当法による退職手当、国家公務員共済組合法による遺族年金、国家公務員災害補償法による遺族補償金の受給権者でな…
重要事実
Dは不法行為(本件事故)により死亡し、Dの相続人である被上告人は、Dが生存していれば受給できたはずの退職年金の逸失利益を損害として賠償を請求した。一方で、被上告人はDの死亡を原因として遺族年金の受給権を取得した。原審の口頭弁論終結時までに、被上告人は一定額の遺族年金を現実に受領していたが、加害者側(上告人)は、将来受給するであろう平均余命期間分の遺族年金の現在額も損害額から控除すべきであると主張した。
あてはめ
退職年金と遺族年金は、共に遺族の生活維持を目的とするものであり、同質性を有する。しかし、遺族年金は受給者の婚姻や死亡により受給権が消滅する(存続に不確実性がある)。支給が既に確定した分については存続が確実といえるが、将来の未確定分については、現実に履行された場合と同視できるほど存続が確実とはいえない。したがって、公平の見地から損益相殺の対象となるのは、原審口頭弁論終結時に支給を受けることが確定していた範囲の金額(既払分および支給期が到来した分)に限定される。
結論
損害額から控除すべき遺族年金の額は、既に支給を受けた額と、事実審の口頭弁論終結時において支給を受けることが確定していた額の合計に限られる。将来の分まで控除すべきとした従前の判例は変更される。
実務上の射程
人身損害における損益相殺の範囲を画定した重要判例。社会保険給付等において「将来の不確定な給付」が控除対象外であることを明確にしており、答案では『履行の確実性』をキーワードに、事実審の口頭弁論終結時を基準として控除額を算定する。公的年金以外にも、履行の不確実性が伴う利得の扱いに類推適用し得る。
事件番号: 平成9(オ)434 / 裁判年月日: 平成11年10月22日 / 結論: その他
一 障害基礎年金及び障害厚生年金の受給権者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べかりし右各障害年金額を逸失利益として請求することができる。 二 障害基礎年金及び障害厚生年金についてそれぞれ加給分を受給している者が不法行為により死亡した場合には、その相続人は、加害者に対し、被害者の得べ…