不法行為により死亡した国家公務員の給与、国家公務員等退職手当法による退職手当、国家公務員共済組合法による退職給付の受給利益喪失による損害賠償債権を相続した者が、右公務員の死亡により遺族に給付される国家公務員等退職手当法による退職手当、国家公務員共済組合法による遺族年金、国家公務員災害補償法による遺族補償金の受給権者でない場合には、右相続人の損害賠償債権額から右各給付相当額を控除すべきではない。
不法行為により死亡した国家公務員の得べかりし利益の喪失による損害賠償債権を相続した右公務員の死亡により遺族に支給される退職手当、遺族年金、遺族補償金の受給権者でない場合と相続した損害賠償債権額から右各給付相当額を控除することの可否
民法709条,国家公務員等退職手当法2条1項1号,国家公務員共済組合法88条,国家公務員災害補償法(昭和41年法律第67号による改正前のもの)15条
判旨
不法行為により死亡した国家公務員の遺族が、逸失利益の損害賠償債権を相続した場合、受給権者である遺族の賠償額からは支給された遺族年金等の額を損益相殺として控除すべきであるが、受給権者でない他の共同相続人の賠償額から控除することはできない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償額の算定において、遺族の一部のみが受給権を有する遺族年金等の給付額を、受給権のない他の共同相続人(子)の損害賠償額から控除できるか。
規範
損害の公平な分担という観点から損益相殺を行うためには、給付が死亡者の逸失利益と「実質的に同一同質」のものであり、かつ受給権者が「法律上の利益」としてそれを享受している必要がある。したがって、各種給付の受給権者が法律上特定の遺族に限定されている場合、受給権者でない他の遺族が事実上その利益を享受したとしても、その者の損害賠償額から当該給付額を控除することはできない。
重要事実
国家公務員Dが他人の不法行為により死亡した。Dの遺族は妻Eおよび子ら(上告人)であった。Dの死亡に伴い、国家公務員等退職手当法等に基づき退職手当、遺族年金、遺族補償金が支給されたが、当時の法令によれば、これら各給付の受給権者は第一順位である妻Eのみであった。原審は、子らの損害賠償請求額からも、相続分に応じて按分した給付相当額を控除(損益相殺)した。
あてはめ
本件における退職手当、遺族年金及び遺族補償金は、死亡した公務員の収入により生計を維持していた遺族の逸失利益を補填する性質を有し、逸失利益と同一同質の機能を持つ。しかし、法令上、これらの受給権者は妻Eのみに限定されており、子である上告人らは受給権を有しない。子が妻から事実上の利益享受を受けることがあっても、それは法律上保障された利益とはいえない。したがって、当該給付相当額は、法律上の受給権者である妻Eの損害賠償債権からのみ控除されるべきであり、上告人らの損害賠償債権から控除することは許されない。
結論
受給権のない遺族の損害賠償額から、他の遺族が受領した給付額を控除することはできない。原判決のうち、上告人らの損害賠償額から給付額を控除した部分は破棄を免れない。
実務上の射程
損益相殺の対象となる給付の受給権者と、不法行為の被害者の相続人が一致しない場合の処理を示す。答案上では、逸失利益の算定において「損害の二重の利得」を防ぐ趣旨を述べつつ、給付の法的根拠(受給権者の特定)に基づき、控除できる範囲を個別的に検討する際の準拠枠組みとなる。
事件番号: 昭和38(オ)987 / 裁判年月日: 昭和41年4月7日 / 結論: 棄却
不法行為により死亡した者の得べかりし普通恩給の受給利益喪失の損害賠償債権を相続した者が、当該被害者の死亡により、扶助料の受給権を取得した場合には、当該相続人が請求することができる損害賠償額は、扶助料額の限度において減縮すべきものと解するのが相当である。
事件番号: 昭和40(オ)330 / 裁判年月日: 昭和43年10月3日 / 結論: その他
一、(省略) 二、被害者の遺族が支出した葬式費用は、社会通念上特に不相当なものでないかぎり、加害者側の賠償すべき損害となる。 三、被害者の遺族が受領した香典は、損害額の算定にあたり控除すべきものではない。