不法行為により死亡した被害者の相続人がその死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,当該相続人がする損害賠償請求において,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を給与収入等を含めた逸失利益全般から控除すべきである。
不法行為により死亡した被害者の相続人がする損害賠償請求において当該相続人が受給権を取得した遺族厚生年金を控除すべき逸失利益の範囲
民法709条,厚生年金保険法58条
判旨
不法行為による損害賠償額から自賠責保険金等を控除する際、支払額が元本及び遅延損害金の全額を消滅させるに足りないときは、民法491条を準用し遅延損害金にまず充当すべきである。また、相続人が取得した遺族厚生年金は、受給権者たる相続人のみが承継した逸失利益全般との関係で損益相殺の対象となる。
問題の所在(論点)
1. 自賠責保険金等の支払があった場合、遅延損害金と元本のいずれに先に充当すべきか(損益相殺の計算手法)。 2. 遺族厚生年金を控除する際、被害者自身の給与収入等の逸失利益からも控除できるか、また受給権者以外の相続人の取得分からも控除すべきか。
規範
1. 自賠責保険金等の損益相殺的調整において、支払額が元本及び遅延損害金の全部を消滅させるに足りないときは、民法491条1項の規定に基づき、まず遅延損害金に充当し、次いで元本に充当すべきである。 2. 遺族厚生年金は、被害者の逸失利益全般(給与収入等を含む)との間で損益相殺的な調整を図るべきであるが、その控除は現に受給権を取得した相続人の相続分についてのみ行うべきである。
重要事実
被害者Dは交通事故により死亡し、その両親である上告人A1及びE(後に死亡しA1とA2が相続)が損害賠償請求権を相続した。A1は自賠責保険金のほか、遺族補償年金及び遺族厚生年金を受給した。原審は、不法行為による賠償請求権は損益相殺後の「真の損害額」について成立するとし、充当の規定を適用せず、また遺族年金全額をDの損害総額から控除した上で相続分を算定したため、受給権のないA2の取得分も減額される結果となった。
あてはめ
1. 不法行為の賠償債務は事故時に催告なく遅滞に陥るため、支払時までに既に遅延損害金が発生している。よって民法491条1項により、まず既発生の遅延損害金に充当し、残額を元本に充当するのが合理的である。 2. 遺族厚生年金は、被害者の死亡により取得する利益であり、逸失利益とは同質性がある。しかし、控除は「公平の見地」から行われるものであるため、現に利益を受けた受給権者(A1)の取得額からのみ控除すべきであり、受給権のない相続人(A2)の分まで控除した原審の判断は誤りである。
結論
自賠責保険金等は遅延損害金にまず充当し、遺族年金は受給権者たる相続人の取得分に限定して、逸失利益全般から控除すべきである。原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
実務上、損害賠償額の計算において「充当」の順序は遅延損害金を優先させる(外側説的な処理)。答案上、損益相殺の計算過程を書く際は、中間利息控除後の元本だけでなく、事故時からの遅延損害金への充当を明記し、かつ控除の対象者が限定される点に注意する。
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