1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務は,期限の定めのない債務であり,政府が被害者から履行の請求を受けた時から履行遅滞となる。 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額を控除すべきときは,被害者に生じた現実の損害の額から過失割合による減額をし,その残額からこれを控除する。
1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務の履行期と履行遅滞 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たっての過失相殺と国民健康保険法58条1項の規定による葬祭費の支給額の控除との先後
民法412条3項,民法722条2項,自動車損害賠償保障法施行令21条14号,自動車損害賠償保障法72条1項,自動車損害賠償保障法73条1項,国民健康保険法58条1項
判旨
政府の損害てん補義務は、履行請求時から遅滞に陥る期限の定めのない債務であり、そのてん補額の算定にあたって過失相殺と社会保険給付の控除を行う場合は、現実の損害額から過失割合による減額を先行させ、その残額から給付額を控除すべきである。
問題の所在(論点)
1. 法72条1項後段に基づく政府の損害てん補債務の遅滞時期(起算点)はいつか。 2. 過失相殺と社会保険給付(葬祭費)の控除の両方が必要な場合、どちらを先に計算すべきか(計算の順序)。
規範
1. 自動車損害賠償保障法(以下「法」)72条1項後段の損害てん補義務は、期限の定めのない債務であり、政府が被害者から履行請求を受けた時から遅滞に陥る(民法412条3項)。 2. 法72条1項後段のてん補額の算定において、被害者の過失をしんしゃくし、かつ国民健康保険法に基づく葬祭費等の給付を控除すべき場合は、現実の損害額から過失割合による減額をまず行い、その残額から給付額を控除する。被害者に支払われるべき「損害のてん補に相当する給付」は、最終的に政府が負担すべき額から差し引かれるべきだからである。
重要事実
被害者Dは、信号無視をして自転車で横断中、無保険かつ速度超過の自動車に衝突され死亡した。Dの過失割合は5割、損害総額は約3193万円であった。Dの相続人(被上告人ら)は、政府(上告人)に対し法72条1項後段に基づく損害てん補を請求し、後に一部支払を受けた。また、相続人の一人B1は葬儀費用を支出し、国民健康保険法に基づき葬祭費5万円の支給を受けた。B1らは、請求日の翌日からの遅延損害金を含む残額の支払を求めて提訴した。
あてはめ
1. 本件損害てん補債務は法律上当然に額が確定するものではなく、被害者の請求を待って履行期が到来するため、請求日の翌日から遅滞に陥ると解するのが相当である。 2. 算定順序について、原審は損害額から葬祭費を控除した後に過失相殺をしたが、これは誤りである。法72条の趣旨は運行供用者が賠償すべき損害を補填することにあるため、まず過失相殺により「加害者が賠償すべき額(現実の損害)」を確定させ、そこから他法による二重利得防止のための給付額を差し引くべきである。本件では、葬儀費用約94万円に過失5割を適用して約47万円とし、そこから葬祭費5万円を控除した約42万円を基礎とすべきである。
結論
1. 政府は被害者からの履行請求を受けた時から遅滞責任を負う。 2. 過失相殺後の残額から社会保険給付額を控除して算定した額につき、支払を命じた原判決を変更し、認容額を一部減額する。
実務上の射程
自賠責保険制度における「政府の保障事業」の法的性質を明らかにした判例である。損益相殺(公的給付の控除)と過失相殺が競合する場合の計算順序について「過失相殺先責(控除後相殺説の否定)」を明示したものであり、交通事故の実務・答案作成において極めて重要である。
事件番号: 平成16(受)525 / 裁判年月日: 平成16年12月20日 / 結論: 破棄差戻
不法行為により死亡した被害者の相続人がその死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,当該相続人がする損害賠償請求において,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を給与収入等を含めた逸失利益全般から控除すべきである。