1 交通事故の被害者が労働者災害補償保険法に基づく給付を受けてもなお塡補されない損害について自賠法16条1項に基づく請求権を行使する場合は,他方で労働者災害補償保険法12条の4第1項により国に移転した上記請求権が行使され,被害者の上記請求権の額と国に移転した上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超えるときであっても,被害者は,国に優先して自動車損害賠償責任保険の保険会社から上記保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができる。 2 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」とは,保険会社において,被害者の損害賠償額の支払請求に係る事故及び当該損害賠償額の確認に要する調査をするために必要とされる合理的な期間をいい,その期間については,事故又は損害賠償額に関して保険会社が取得した資料の内容及びその取得時期,損害賠償額についての争いの有無及びその内容,被害者と保険会社との間の交渉経過等の個々の事案における具体的事情を考慮して判断すべきである。
1 被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と労働者災害補償保険法12条の4第1項により国に移転して行使される上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合に,被害者は国に優先して損害賠償額の支払を受けられるか 2 自賠法16条の9第1項にいう「当該請求に係る自動車の運行による事故及び当該損害賠償額の確認をするために必要な期間」の意義及びその判断方法
(1につき) (自賠法)自動車損害賠償保障法16条1項,労働者災害補償保険法12条の4第1項 (2につき) (自賠法)自動車損害賠償保障法16条の9第1項
判旨
労災保険給付後も残る未塡補損害について被害者が自賠法16条1項に基づく直接請求権を行使する場合、国に移転した請求権と合計して保険金額を超えるときでも被害者は国に優先して支払を受けられる。また、同条9項1項による損害賠償額支払債務の遅滞時期は、裁判の確定時ではなく、事故及び損害額の確認に要する調査のための合理的な期間を経過した時と解すべきである。
問題の所在(論点)
1. 被害者の未塡補損害に係る直接請求権と、国に移転した直接請求権が競合し、その合計額が自賠責保険金額を超える場合、被害者は優先的に支払を受けられるか。 2. 自賠法16条9項1項に規定される、直接請求に基づく損害賠償額支払債務が遅滞に陥らない「確認をするために必要な期間」の意義。
規範
1. 自賠法16条1項の趣旨は被害者の確実な損害補填にある。労災保険法12条4項1項は二重補填防止等を目的とし、国の債権回収を主目的とするものではないため、被害者は国に優先して自賠責保険金額から未塡補損害の支払を受けることができる。 2. 自賠法16条9項1項にいう「確認をするために必要な期間」とは、保険会社が事故及び損害額の確認に要する調査のために必要とされる合理的な期間をいう。これは訴訟提起の場合でも異ならず、個別の具体的事情(取得資料の内容、争いの有無、交渉経過等)を考慮して判断される。
重要事実
トラック運転手の被害者(原告)は、加害車両との衝突事故により後遺障害を負った。被害者は国から労災保険給付を受けたが、なお未塡補損害が残った。被害者が自賠責保険会社(被告)に対し自賠法16条1項に基づき直接請求権を行使したところ、国に移転した請求権と被害者の請求権の合計額が自賠責保険金額を超過した。また、遅延損害金の起算点について、保険会社は判決確定時まで支払義務を負わないと主張した。
あてはめ
1. 自賠法の被害者保護の目的からすれば、未塡補損害が保険金額の範囲内であるにもかかわらず、国への権利移転を理由に全額の支払を受けられないのは同法の趣旨に反する。したがって、被害者は案分されることなく、優先的に保険金額の限度で支払を受けられる。 2. 原審は特段の事情がない限り判決確定時まで遅滞に陥らないとしたが、同条9項1項は迅速な支払と適正な調査の調和を図る民法412条3項の特則である。よって、訴訟継続中か否かを問わず、資料取得時期や争点の内容等の個別事情から判断される「調査に要する合理的な期間」が経過した時点で遅滞に陥るというべきである。
結論
1. 被害者は国に優先して自賠責保険金額の限度で直接請求権を行使できる。 2. 保険会社の支払債務は、判決確定時ではなく、調査に必要な合理的期間を経過した時から遅滞に陥る。
実務上の射程
1. 労災保険と自賠責保険が重畳する事案において、被害者の優先権を認めた実務上極めて重要な判例である。答案上は、被害者保護の趣旨から国との劣後関係を否定する論法として用いる。 2. 自賠責直接請求における遅延損害金の起算点について、安易に「判決確定時」とせず、調査期間の合理性を検討する枠組みとして活用する。
事件番号: 平成16(受)29 / 裁判年月日: 平成17年6月2日 / 結論: その他
1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務は,期限の定めのない債務であり,政府が被害者から履行の請求を受けた時から履行遅滞となる。 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定によ…
事件番号: 平成23(受)289 / 裁判年月日: 平成24年10月11日 / 結論: 破棄自判
自動車損害賠償保障法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟において,裁判所は,同法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく保険金の額を算定して支払を命じることができる。