自動車損害賠償保障法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟において,裁判所は,同法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく保険金の額を算定して支払を命じることができる。
自動車損害賠償保障法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟において裁判所が同法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく保険金の額を算定して支払を命じることの可否
自動車損害賠償保障法15条,自動車損害賠償保障法16条の3
判旨
自動車損害賠償保障法15条に基づく保険金請求訴訟において、裁判所は同法16条の3第1項の支払基準に拘束されず、自ら認定した損害額および過失割合に従って保険金額を算定すべきである。
問題の所在(論点)
自賠法15条所定の保険金の支払を請求する訴訟において、裁判所は同法16条の3第1項に規定する支払基準(被害者の過失割合に応じた段階的な減額規定等)に拘束されるか。
規範
自賠法16条の3第1項は、保険者が保険金支払時に従うべき基準を定めたものであるが、裁判所が損害賠償額を算定する際にこれを拘束するものではない。したがって、自賠法15条に基づく保険金請求訴訟においても、裁判所は支払基準によることなく、自ら相当と認定判断した損害額及び過失割合に従って保険金の額を算定して支払を命じなければならない。
重要事実
被害者Aが死亡した事故につき、自賠責保険者である上告人は既に1500万円を支払っていた。Aの相続人らと加害者側との和解で損害額7500万円・Aの過失6割とされた後、任意保険者である被上告人は加害者側に代わり1500万円を支払い、上告人に対し自賠法15条に基づく請求を行った。原審は、Aの損害を7500万円・過失を8割と認定した上で、支払基準上の「過失8割なら3割減額」というルールを適用し、3000万円から3割を控除した2100万円と既払金との差額600万円の支払を命じた。
あてはめ
原審はAの損害額を7500万円、過失割合を8割と認定している。この認定に基づき裁判所が自ら算定を行うならば、損害額に過失相殺(8割減額)を適用した額は1500万円となる。上告人は既に1500万円を支払済みであるから、自ら認定した事実に基づく限り、上告人に更なる支払義務は生じない。原審が自らの認定事実による過失相殺を行わず、機械的に行政上の支払基準を適用して支払を命じたことは、裁判所の算定権限を誤解した法令違反があるといえる。
結論
裁判所は行政上の支払基準に拘束されないため、自ら認定した損害額(7500万円)から過失割合(8割)を控除した1500万円が適正な支払額となる。既払額を控除すると残額はなく、被上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
自賠法16条(被害者の直接請求)に関する先行判例(最判平18.3.30)の理を、15条(加害者・被保険者による請求)にも及ぼしたものである。答案上は、自賠責保険が「最低限の補償」を目的とする行政的性格を有しつつも、訴訟においては裁判所の法的判断が優先されることを示す際に活用する。
事件番号: 令和3(受)1473 / 裁判年月日: 令和4年7月14日 / 結論: 破棄自判
被害者の有する自賠法16条1項の規定による請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合であっても、自動車損害賠償責任保険の保険会社が国の上記請求権の行使を受けて国に対して上記保険金額の限度でした損害賠償額の支払は、有効な弁済に当たる。