交通事故の被害者が,老人保健法(平成17年法律第77号による改正前のもの。以下同じ。)25条1項に基づく医療の給付を受けてもなおてん補されない損害について自賠法16条1項に基づく請求権を行使する場合は,他方で,医療の給付を行った市町村長が,老人保健法41条1項により取得した上記請求権を行使し,被害者の上記請求権の額と市町村長が取得した上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超えるときであっても,被害者は市町村長に優先して自動車損害賠償責任保険の保険会社から上記保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができる。
被害者の行使する自賠法16条1項に基づく請求権の額と市町村長が老人保健法(平成17年法律第77号による改正前のもの)41条1項により取得し行使する上記請求権の額の合計額が自動車損害賠償責任保険の保険金額を超える場合に,被害者は市町村長に優先して損害賠償額の支払を受けられるか
自動車損害賠償保障法(自賠法)16条1項,老人保健法(平成17年法律第77号による改正前のもの)25条1項,老人保健法(平成17年法律第77号による改正前のもの)41条1項
判旨
国民健康保険法に基づく療養の給付(同法36条1項)を受けた被保険者が、第三者の不法行為により傷害を負った場合において、当該給付に係る一部負担金の額を超える損害賠償請求権を取得したときは、保険者は同法64条1項により、その給付の価額の限度で賠償請求権を代位取得する。この場合、損害賠償額から控除されるのは、保険者が負担した給付額(療養の給付の価額から一部負担金を控除した額)に限られ、被保険者が支払った一部負担金相当額については、依然として加害者に対し賠償を請求し得る。
問題の所在(論点)
国民健康保険の被保険者が療養の給付を受けた場合、保険者が国民健康保険法64条1項に基づき代位取得する損害賠償請求権の範囲、および被保険者が支払った「一部負担金」について加害者に賠償請求をなし得るか。
規範
国民健康保険法64条1項は、保険者が療養の給付を行ったときは、その給付の価額の限度で、被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得すると規定する。この趣旨は、被保険者が損害の填補を二重に受けることを防ぐとともに、最終負担を不法行為者に帰せしめる点にある。したがって、保険者が代位取得する範囲は、保険者が現実に負担した給付額(全療養費から被保険者の自己負担分を除いた額)に限定される。一方で、被保険者が現実に支払った一部負担金は、保険者から填補を受けていない損害であるから、同条項によって賠償請求権が消滅することはない。
重要事実
被保険者である被害者は、加害者の運転する車両による交通事故により傷害を負い、医療機関に入院・通院して「療養の給付」を受けた。この療養に要した費用の総額に対し、被害者は国民健康保険法上の「一部負担金」として105万円を医療機関に支払った。残りの費用は保険者(市)が負担した。被害者は加害者に対し、自身が負担した一部負担金相当額を含む損害賠償を請求した。
あてはめ
本件において、保険者が行ったのは「療養の給付」であり、その価額から被保険者が支払った一部負担金を控除した額が、保険者が現実に負担した額となる。国民健康保険法64条1項の代位の対象は、この保険者負担分に限られる。被害者が支払った一部負担金105万円は、保険者によって填補されたものではなく、依然として被害者に残存する現実の損害といえる。したがって、保険者が代位取得した権利と一部負担金に係る賠償請求権は併存し、後者が保険者の代位によって消滅することはないと解される。
結論
被保険者は、保険者が代位取得した限度(保険者負担分)を除き、自身が支払った一部負担金相当額について、加害者に対し損害賠償を請求することができる。
実務上の射程
社会保険給付と不法行為に基づく損害賠償の調整に関する基本判例である。被害者の実損害のうち、保険者が肩代わりした分のみを代位の対象とし、自己負担分については被害者の賠償請求を認めることで、被害者の完全賠償を優先する姿勢を示している。答案作成上は、代位の範囲を確定する際の解釈指針として重要である。
事件番号: 昭和54(オ)34 / 裁判年月日: 昭和57年1月19日 / 結論: その他
一 被保険者の運行供用者責任の成否について保険会社が争つたため、交通事故の被害者が自動車損害賠償保障法一六条一項の規定に基づき保険会社に対し損害金支払請求の訴えを提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合には、その弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる限…