被害者が自賠法73条1項所定の他法令給付(同項に掲げる法令に基づく同法72条1項による損害のてん補に相当する給付)に当たる年金の受給権を有する場合において,政府が同法72条1項によりてん補すべき損害額は,支給を受けることが確定した年金の額を控除するのではなく,当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めた年金の額を控除して,これを算定すべきである。 (反対意見がある。)
被害者が自賠法73条1項所定の他法令給付に当たる年金の受給権を有する場合に,政府が同法72条1項によりてん補すべき損害額を算定するに当たって控除すべき年金の額
(自賠法)自動車損害賠償保障法72条1項,(自賠法)自動車損害賠償保障法73条1項
判旨
自賠法73条1項に基づき、政府保障事業による損害のてん補額を算定する際、被害者が他法令の年金受給権を有する場合には、将来の給付分も含めた金額を控除すべきである。この将来給付額は、受給権取得時の年金額が平均余命期間支給されると仮定した支給総額の現在額により算定するのが相当である。
問題の所在(論点)
自賠法73条1項に基づき政府が控除できる「損害のてん補に相当する給付」の範囲に、いまだ現実の支給が確定していない他法令(労災保険等)に基づく年金の将来給付分が含まれるか。特に、損益相殺における「履行の確実性」の要件との関係が問題となる。
規範
自賠法73条1項にいう「他法令による給付を受けるべき場合」には、被害者が将来にわたって受給する年金給付も含まれる。政府保障事業は他法令給付に対して補完的・補充的な地位にあり、二重支給を防止する調整規定が欠如していることから、被害者が年金の受給権を有する場合には、将来の給付分も含めてその限度で政府は免責されると解すべきである。
重要事実
被害者(被上告人)は、加害者不明のひき逃げ事故により四肢麻痺等の後遺障害を負い、労災保険法に基づく障害年金の支給決定を受けた。政府(上告人)は、自賠法72条1項に基づくてん補額を算定する際、法定限度額4000万円から、既払金のほか、平均余命期間に基づき算出した将来の障害年金支給総額の現在額(約1622万円)を控除した。これに対し、被害者は将来分は「給付を受けるべき場合」に当たらず控除できないとして、差額の支払いを求めた。
事件番号: 平成16(受)29 / 裁判年月日: 平成17年6月2日 / 結論: その他
1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務は,期限の定めのない債務であり,政府が被害者から履行の請求を受けた時から履行遅滞となる。 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定によ…
あてはめ
政府保障事業は社会保障的見地から自賠責保険等でも救済されない被害者を補完的に救済する制度である。損益相殺においては、将来の年金受給権は履行の確実性が認められない限り控除されないが、自賠法73条1項は保障事業と他法令給付との調整を直接定めた規定であり、損益相殺と同列には論じられない。労災年金は受給権がある限り原則として確実に支給されるものであり、将来分を控除しても被害者に不当な不利益は与えない。したがって、平均余命までの支給総額の現在額を算定し、これを控除するのが相当である。
結論
政府は将来の障害年金給付額を控除することができ、その余の額(本件では65万円等)を支払う義務を負うにとどまる。
実務上の射程
政府保障事業の事案に特有の規範である。民法上の損益相殺(最判平5.3.24等)では「確定した給付」のみが控除対象となるが、自賠法73条1項が適用される保障事業の場面では「将来の給付分」まで控除範囲が広がるという区別に注意が必要である。
事件番号: 昭和50(オ)621 / 裁判年月日: 昭和52年10月25日 / 結論: その他
労働者災害補償保険法又は厚生年金保険法に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、将来の給付額を受給権者の使用者に対する損害賠償債権額から控除することを要しない。