1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受けたときは,この社会保険給付については,これによるてん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。 2 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付の支給がされ,又は支給されることが確定したときには,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,てん補の対象となる損害は,不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきである。 (1,2につき補足意見がある。)
1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受けたときに,この社会保険給付との間で損益相殺的な調整を行うべき損害 2 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付の支給がされ,又は支給されることが確定したときに,損益相殺的な調整に当たって,損害がてん補されたと評価すべき時期
(1,2につき)民法709条,労働者災害補償保険法22条の2,労働者災害補償保険法22条の3 (2につき)民法412条
判旨
労災保険法に基づく休業給付及び障害一時金は、不法行為による逸失利益の元本との間でのみ損益相殺的な調整を行うべきであり、遅延損害金に充当することはできない。また、これらは特段の事情がない限り、不法行為時に損害がてん補されたものと法的に評価される。
問題の所在(論点)
労災保険給付と不法行為に基づく損害賠償債務との調整において、給付額を遅延損害金に充当できるか(充当の対象)。また、控除の基準時はいつか(損益相殺の基準時)。
規範
労災保険給付は、各給付の趣旨目的に従い、てん補の対象となる特定の損害と同性質かつ相互補完性を有する損害の元本との間で損益相殺的な調整を行う。また、制度の予定する時期に支給される限り、不法行為時に当該損害がてん補されたものと法的に評価(事故時てん補説)し、逸失利益の元本から控除する。
重要事実
被害者(上告人)は通勤中の交通事故により後遺障害を負い、労災保険法に基づき休業給付および障害一時金を受領した。被害者は、これらの給付は民法491条を類推適用し、まず遅延損害金に充当し、その後に損害金元本から控除すべきだと主張して争った。
あてはめ
休業給付等は得べかりし賃金や労働能力喪失による逸失利益のてん補を目的とするものであり、遅延損害金の補償を目的としない。よって同性質の損害である逸失利益の元本のみが調整対象となる。本件給付は制度の予定通り現実化に対応して支給されており、特段の支給遅滞もないため、事故時にてん補されたものとみなすのが公平である。
結論
労災保険の休業給付等は、遅延損害金に充当することはできず、事故時に遡って逸失利益の元本から控除される。したがって、原審の損益相殺計算は正当であり、上告を棄却する。
実務上の射程
人身損害における労災給付の控除方法を確立した重要判例である。弁済等の民法491条の類推適用を否定し、費目拘束性(同性質性)を厳格に求める。答案では、自賠責保険金が「支払時」に「遅延損害金→元本」の順で充当されることと対比させて論述する。
事件番号: 昭和50(オ)431 / 裁判年月日: 昭和52年5月27日 / 結論: 棄却
厚生年金保険法又は労働者災害補償保険法(昭和四八年法律第八五号による改正前のもの)に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、将来の給付額を受給権者の第三者に対する損害賠償債権額から控除することを要しない。