被保険者が第三者の不法行為によつて傷害を受けて就業不能になつたため、保険者が所得補償保険契約に基づき保険金を支払つた場合には、保険金相当額を休業損害の賠償額から控除すべきである。
所得補償保険契約に基づいて支払われた保険金相当額を休業損害の賠償額から控除することの可否
民法709条,商法662条
判旨
所得補償保険は、就業不能という保険事故により被った実際の損害を填補することを目的とした損害保険の一種であり、保険者は商法上の規定に基づき、支払った保険金の限度で被保険者の第三者に対する休業損害賠償請求権を代位取得する。
問題の所在(論点)
所得補償保険の法的性質が損害保険といえるか、また保険者代位の規定がない場合に商法の規定により保険者代位が認められるか。
規範
保険契約が、傷害・疾病そのものではなく、それによって発生した就業不能という事故による実際の損害を填補することを目的とするものである場合には、損害保険の一種と解される。この場合、保険者代位の約款規定がなくとも、商法(現行法上の保険法25条1項に相当)の規定に基づき、保険者は支払った保険金の限度で、被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権を代位取得する。
重要事実
本件所得補償保険の約款には、①就業不能による損失を支払対象とする、②保険金額は平均月間所得額等を上限とする、③就業不能期間の重複に対し重ねて支払わない、④他契約との重複時は按分して支払う、との規定があった。一方、約款上に保険者代位の明文規定は存在しなかった。被保険者が第三者の不法行為により傷害を被り、就業不能となって保険金を受領した際に、被保険者が第三者に対して有する損害賠償請求権が保険者に移転するかが争われた。
あてはめ
本件約款の規定によれば、本件保険は実損害の填補を目的とする損害保険の性質を有する。そうであれば、二重利得の禁止及び利得禁止の原則という損害保険の基本原理が妥当する。したがって、約款に代位規定がなく、また保険会社が実務上代位権を行使しない実情があったとしても、商法662条1項(当時)の規定が当然に適用され、保険金支払により被保険者の賠償請求権は保険者に移転し、被保険者はその限度で賠償請求権を喪失すると解される。
結論
所得補償保険は損害保険の一種であり、保険金支払によって保険者は休業損害賠償請求権を代位取得する結果、被保険者は当該権利を喪失する。
実務上の射程
所得補償保険が「損害保険」であることを明示した点に意義がある。答案上、傷害保険等の定額保険との対比で、実損填補の趣旨(按分規定や所得上限規定)があるか否かを確認し、損害保険性を認定した上で、保険法25条(旧商法662条)の代位を肯定する論理として活用できる。
事件番号: 昭和63(オ)462 / 裁判年月日: 平成元年4月11日 / 結論: 棄却
労働者がいわゆる第三者行為災害により被害を受け、第三者がその損害につき賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価額を控除するのが相当である。