労働者がいわゆる第三者行為災害により被害を受け、第三者がその損害につき賠償責任を負う場合において、賠償額の算定に当たり労働者の過失を斟酌すべきときは、右損害の額から過失割合による減額をし、その残額から労働者災害補償保険法に基づく保険給付の価額を控除するのが相当である。
いわゆる第三者行為災害に係る損害賠償額の算定に当たつての過失相殺と労働者災害補償保険法に基づく保険給付額の控除との先後
民法709条,民法722条2項,労働者災害補償保険法12条の4
判旨
第三者の不法行為による労働災害で、被害労働者に過失がある場合の損害賠償額算定において、過失相殺と労災保険給付の控除は、先に損害額から過失相殺を行い、その残額から保険給付額を差し引く(「過失相殺前置説」)。
問題の所在(論点)
第三者の不法行為による被害労働者が労災保険給付を受けた場合、不法行為に基づく損害賠償額の算定において、過失相殺と保険給付の控除をどのような順序で行うべきか。労災保険法12条の4の解釈が問題となる。
規範
労働者災害補償保険法12条の4第1項により、国が取得する損害賠償請求権は、受給権者が第三者に対して取得した請求権の額、すなわち被害者の過失をあらかじめ斟酌した後の額を限度とする。したがって、同一事由による損害賠償額を算定する際は、全損害額から過失割合による減額(過失相殺)を最初に行い、その残額から保険給付の価額を控除する方法によるべきである。
重要事実
労働者(上告人)が第三者(被上告人)の行為により発生した事故によって損害を被り、労災保険給付を受けた。当該事故の発生には労働者側にも過失が認められる状況であった。この場合において、第三者に対して請求し得る損害賠償額を計算する際、「損害額から先に労災給付を引いて、その残りに過失相殺をする」のか、それとも「損害額を先に過失相殺し、その残額から労災給付を引く」のかが争われた。
あてはめ
労災保険法12条の4は、二重填補の防止と代位取得を定めている。政府が保険給付をした際、国に移転する損害賠償請求権は、受給権者が「第三者に対して取得した」権利である。過失相殺が必要な事案において、受給権者が本来第三者に対して取得する権利は、過失相殺後の額にすぎない。したがって、文理上、代位の対象となるのは過失相殺後の損害賠償請求権であると解される。この解釈により、損害額から先に過失相殺を行い、その後に保険給付額を控除する計算順序が導かれる。
結論
過失相殺を先に行い、その残額から労災保険給付額を控除する方法によって算出された損害賠償額を正当とする。
実務上の射程
被害者の過失がある労災事故の損害賠償請求(不法行為・安全配慮義務違反)において、賠償額を計算する際の確立した実務上の判断枠組みである。答案作成上は、被害者の受領額が少なくなる計算順序(過失相殺前置説)であることを念頭に、労災法12条の4の文理から論証を展開する。
事件番号: 昭和62(オ)1532 / 裁判年月日: 平成元年1月19日 / 結論: 棄却
被保険者が第三者の不法行為によつて傷害を受けて就業不能になつたため、保険者が所得補償保険契約に基づき保険金を支払つた場合には、保険金相当額を休業損害の賠償額から控除すべきである。