労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和四九年労働省令第三〇号)による特別支給金は、被災労働者の損害額から控除することができない。
労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和四九年労働省令第三〇号)による特別支給金を被災労働者の損害額から控除することの可否
労働基準法84条2項,労働者災害補償保険法12条の4,労働者災害補償保険法(平成7年法律第35号による改正前のもの)23条1項,労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和49年労働省令第30号)1条,労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和49年労働省令第30号)2条,民法709条
判旨
労働者災害補償保険法に基づく特別支給金は、労働福祉事業として被災労働者の福祉増進を図るために支給されるものであり、損害をてん補する性質を有しないため、損害賠償額の算定にあたり控除することはできない。
問題の所在(論点)
労災保険法に基づく「特別支給金」の受領が、不法行為または安全配慮義務違反に基づく損害賠償額の算定において、損益相殺(またはこれに類する調整)の対象として控除されるべきか。その法的性質が問題となる。
規範
労災保険法上の「保険給付」は使用者の災害補償義務を代位履行する損害てん補的性質を有するが、他方で「特別支給金」は、労働福祉事業の一環として被災労働者の療養生活の援護や福祉増進を図るために支給されるものである。したがって、特別支給金には損害をてん補する性質はなく、損害賠償義務の履行との調整規定も存在しないため、損害賠償額から控除することはできない。
重要事実
被災労働者である被上告人は、業務上の事故により負傷し、労災保険法に基づき「休業特別支給金」及び「障害特別支給金」を受領した。本件損害賠償請求訴訟において、使用者側(上告人)は、既払いの保険給付と同様に、これらの特別支給金についても損害額から控除(損益相殺ないし類推適用)すべきであると主張して争った。
事件番号: 平成6(オ)992 / 裁判年月日: 平成8年2月23日
【結論(判旨の要点)】労災保険法に基づく特別支給金は、被災労働者の福祉増進を目的とする労働福祉事業の一環であり、損害をてん補する性質を有しないため、損害賠償額から控除することはできない。 第1 事案の概要:被災労働者である被上告人は、業務上の災害を原因として、労働者災害補償保険法に基づき「休業特別支給金」及び「障害特別…
あてはめ
労災保険の保険給付については、損益相殺的な調整規定(法12条の4等)が存在し、損害てん補性が認められる。これに対し、本件の休業特別支給金及び障害特別支給金は、労働福祉事業として「福祉の増進」を目的として支給されるものである。この支給には、保険給付のような損害賠償義務の履行との調整規定も設けられていない。このような目的・性格の差異に照らせば、特別支給金は損害のてん補を目的とするものとは評価できず、損害額からの控除を認める根拠はないといえる。
結論
被上告人が受領した休業特別支給金及び障害特別支給金を、損害額から控除することはできない。
実務上の射程
実務上、労災事故における損害賠償額の計算において非常に重要な判例である。保険給付(休業補償給付等)は控除の対象となるが、特別支給金は「お見舞金」的な性質として控除対象外となる点を明確に区別して論じる必要がある。答案では、損益相殺の可否を論じる箇所で、給付の法的性質(損害てん補性の有無)に言及しつつ本判例の規範を引用する。
事件番号: 昭和55(オ)82 / 裁判年月日: 昭和58年4月19日 / 結論: 破棄差戻
労働者災害補償保険法による障害補償一時金及び休業補償給付は、被災労働者の精神上の損害を填補するためのものではなく、これを同人の慰藉料から控除すべきではない。