判旨
労災保険法に基づく特別支給金は、被災労働者の福祉増進を目的とする労働福祉事業の一環であり、損害をてん補する性質を有しないため、損害賠償額から控除することはできない。
問題の所在(論点)
労災保険法に基づき支給される「特別支給金」が、損害をてん補する性質を有し、民法上の損害賠償額から控除(損益相殺)すべき対象に含まれるか。
規範
労災保険による「保険給付」は、使用者の災害補償義務を代行し損害をてん補する性質を有するが、他方で「特別支給金」は、労働福祉事業の一環として被災労働者の療養生活の援護等により福祉の増進を図るために支給されるものである。したがって、特別支給金は損害をてん補する性質を有さず、不法行為等に基づく損害賠償額の算定において損益相殺(控除)の対象とはならない。
重要事実
被災労働者である被上告人は、業務上の災害を原因として、労働者災害補償保険法に基づき「休業特別支給金」及び「障害特別支給金」を受領した。その後、使用者側に対して損害賠償を請求した際、これら特別支給金の額を損害額から控除すべきか否かが争点となった。
あてはめ
法的な調整規定が存在する「保険給付」と異なり、特別支給金に関しては、使用者や第三者の損害賠償義務との調整規定(法12条の4等と同趣旨の定め)が存在しない。これは、特別支給金が損害てん補ではなく、被災労働者の福祉増進を目的としていることを示している。本件で支給された休業特別支給金及び障害特別支給金も、この労働福祉事業としての性格を有するものであるため、損害額から控除することはできないと解される。
結論
被上告人が受領した休業特別支給金及び障害特別支給金は、その損害額から控除することはできない。
実務上の射程
労災事故に関する損害賠償請求において、既払の「労災保険給付(休業補償給付等)」は控除対象となるが、「特別支給金」は控除対象外とする二分論を確立した。答案上は、利得吐き出しの要否を判断する際、給付の法的性質(損害てん補性)の有無から論証する際に用いる。
事件番号: 昭和55(オ)82 / 裁判年月日: 昭和58年4月19日 / 結論: 破棄差戻
労働者災害補償保険法による障害補償一時金及び休業補償給付は、被災労働者の精神上の損害を填補するためのものではなく、これを同人の慰藉料から控除すべきではない。