労働者災害補償保険法に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、受給権者が使用者に対し自動車損害賠償保障法三条に基づいて請求しうる損害賠償の額から将来の給付額を控除すべきではない。
労働者災害補償保険法に基づく保険給付の確定と受給権者が使用者に対し自動車損害賠償保障法三条に基づいて請求しうる損害賠償の額から将来の給付額を控除することの要否
自動車損害賠償保障法3条,労働基準法84条2項,労働者災害補償保険法12条の4
判旨
労災保険法に基づく保険給付の原因が第三者の不法行為等にある場合、将来給付されることが確定している未支給の給付額を損害賠償額から控除することはできない。
問題の所在(論点)
労災保険法に基づき将来継続して給付されることが確定しているが、いまだ現実に給付されていない保険給付(未支給の年金等)の額を、不法行為に基づく損害賠償額から控除することができるか。
規範
労働者災害補償保険法に基づく保険給付と損害賠償との調整において、受給権者が損害賠償請求権を失うのは、政府が現実に保険金を給付して損害を填補したときに限られる。したがって、将来にわたり継続して給付されることが確定しているものであっても、現実に給付がなされていない以上、損害賠償額を算定するにあたり当該将来の給付額を控除することはできない。
重要事実
交通事故により死亡した労働者Dの遺族(上告人)が、加害者BおよびDの使用者である会社(被上告人ら)に対し、不法行為および自賠法3条に基づき損害賠償を請求した。原審は、将来にわたり支給されることが確定している遺族補償年金の現価額(約916万円)を算定し、これが損害賠償債権額(約610万円)を上回るとして、未支給分も含めて損害額から控除(損益相殺的調整)を行い、上告人の請求を棄却した。
あてはめ
本件において、上告人に支給される遺族補償年金のうち、Dの就労可能年数に対応する部分の現価は算定されているものの、これらは現実に給付されたものではない。損害の二重填補を防止するための調整は、現実の給付による損害の填補を条件とするべきである。したがって、未支給の将来給付分をあらかじめ損害額から差し引いた原審の判断は、法令の解釈を誤ったものといえる。
結論
将来の給付額を損害額から控除すべきではない。未支給の保険給付が現価算定可能であっても、現実の給付がない限り損害賠償請求権は消滅しない。
実務上の射程
損害賠償額から労災給付を控除(損益相殺)できる時期を「現実の給付時」に限定した射程の長い判例である。司法試験においては、損害賠償額の算定において、既払の労災給付と未払の労災給付を区別して論述する際に必須の知識となる。中間利息控除や遅延損害金の起算点との関係でも、現実の給付がなければ控除できないという原則を明示すべきである。
事件番号: 昭和50(オ)621 / 裁判年月日: 昭和52年10月25日 / 結論: その他
労働者災害補償保険法又は厚生年金保険法に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、将来の給付額を受給権者の使用者に対する損害賠償債権額から控除することを要しない。