一つの交通事故について甲及び乙が被害者丙に対して連帯して損害賠償責任を負う場合において、乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされ、両者の賠償すべき額が異なるときは、甲がした損害の一部てん補は、てん補額を丙が甲からてん補を受けるべき損害額から控除しその残損害額が乙の賠償すべき額を下回ることにならない限り、乙の賠償すべき額に影響しない。
一つの交通事故について甲及び乙が連帯して損害賠償責任を負う場合に乙の損害賠償責任についてのみ過失相殺がされて両者の賠償すべき額が異なるときに甲のした損害の一部てん補が乙の賠償すべき額に及ぼす影響
民法719条,民法722条2項
判旨
共同不法行為者の一方が損害をてん補した際、その額は被害者がてん補を受けるべき総損害額から控除すべきであり、残額が他方の不法行為者の個別債務額を下回らない限り、後者の賠償額に影響しない。これにより、過失相殺後の個別の賠償義務が、一方の支払によって不当に免脱されることを防ぎ、被害者の完全な救済を図るべきである。
問題の所在(論点)
共同不法行為において、一方の加害者(又はその保険)が損害の一部をてん補した場合に、その控除を「各加害者が過失相殺後に負担すべき個別の賠償義務額」から行うべきか、それとも「被害者がてん補を受けるべき総損害額」から行うべきか。
規範
複数の加害者が連帯して損害賠償責任を負う場合、各加害者の責任の範囲は、被害者の過失を考慮した過失相殺の結果により異なる場合がある。このとき、一方の加害者が支払ったてん補額は、被害者が本来受けるべき損害の総額(全体的な被害額から被害者自身の過失分を控除した額)から控除すべきである。その結果、残った損害額が他方の加害者が負うべき個別の賠償義務額を下回らない限り、他方の加害者の賠償額は減少しない(外側説)。
重要事実
加害者B1(被上告人)とDの共同過失により交通事故が発生し、被害者E(死亡)及びA2(上告人)が死傷した。Dの過失割合は3.5割、Eの過失は0.5割(シートベルト未装着)と認定された。被害者側はDが締結していた自賠責保険から3000万円超のてん補を受けた。その後、被害者側はB1及びその雇用主に対し損害賠償を請求した。B1側は、自賠責によるてん補額は、自己が過失相殺後に負担すべき賠償額から直接控除されるべきだと主張した。
あてはめ
被害者Eがてん補を受けるべき総損害額は、全損害から自己の過失(5%)を控除した約5738万円である。これに対し、被上告人B1が負担すべき額は、被害者側の過失(Dの35%+Eの5%=40%)を相殺した約3624万円となる。自賠責によるてん補額3000万円を「総損害額(5738万円)」から控除すると、残損害額は約2738万円となる。この残額はB1の個別義務額(3624万円)を下回るため、B1の賠償額は結果としてこの残額(2738万円)に制限される。一方、単純に個別義務額から控除する計算(3624万−3000万)を認めると、被害者は十分な補填を受けられず、加害者が不当に責任を免れる不合理が生じる。
結論
一方の加害者によるてん補額は、被害者が受けるべき総損害額から控除すべきである。本件では、総損害額からてん補額を差し引いた残額が、被上告人らが賠償すべき額となる。
実務上の射程
共同不法行為における過失相殺と損害てん補の計算順序を明示した重要判例。実務上「外側説」を確定させたものであり、複数の過失割合や自賠責保険が絡む事案の答案作成において、計算プロセスの規範として必ず引用すべきである。
事件番号: 平成16(受)29 / 裁判年月日: 平成17年6月2日 / 結論: その他
1 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額支払義務は,期限の定めのない債務であり,政府が被害者から履行の請求を受けた時から履行遅滞となる。 2 自動車損害賠償保障法72条1項後段の規定による損害のてん補額の算定に当たり,被害者の過失をしんしゃくすべき場合であって,国民健康保険法58条1項の規定によ…