一 特定の金銭債権の一部を請求する訴訟において相殺の抗弁が理由がある場合には、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、請求額が残存額の範囲内であるときは請求の全額を、残存額を超えるときは残存額の限度でこれを認容すべきである。 二 特定の金銭債権の一部を請求する訴訟において相殺のため主張された自働債権の存否の判断は、右金銭債権の総額から一部請求の額を控除した残額部分に対応する範囲については既報力を生じない。
一 金銭債権の一部請求と相殺 二 金銭債権の一部を請求する訴訟において相殺のため主張された自働債権の存否の判断の既判力
民法505条,民訴法186条,民訴法199条2項
判旨
金銭債権の一部請求に対し相殺の抗弁が提出された場合、裁判所は債権総額から自働債権額を控除し、その残存額が一部請求額を上回る限り、請求を全額認容すべきである。
問題の所在(論点)
金銭債権の一部請求訴訟において、被告から相殺の抗弁が提出された場合の認容額の算定方法(いわゆる外側説の是非)、および控訴審において被告の相殺を認めた結果として第一審の認容額を維持することが不利益変更禁止の原則に抵触するか。
規範
一部請求において相殺の抗弁が提出された場合、まず当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定する。認容額の決定にあたっては、一部請求の額が残存額の範囲内であればそのまま認容し、残存額を超えるときはその残存額の限度で認容する(外側説)。この手法は一部請求を認める趣旨に合致し、かつ被告のみが控訴した場合に当該手法で第一審の認容額を維持しても不利益変更禁止の原則(民訴法304条)には反しない。
重要事実
原告(被上告人)が金銭債権の一部を請求し、第一審で一定額が認容された。被告(上告人)のみが控訴した控訴審において、被告は新たに相殺の抗弁を提出した。控訴審は、第一審の認定額を超える債権総額を確定した上で、自働債権額をその総額から控除したところ、残存額がなお第一審の認容額を上回っていた。そのため、控訴審は被告の控訴を棄却(第一審判決を維持)した。
あてはめ
一部請求は、少なくともその請求範囲で権利が現存することを主張するものである。債権総額から自働債権を控除する手法(外側説)によれば、一部請求の額を減少させずに済むため一部請求の趣旨に反しない。本件では、相殺後の残存額が第一審認容額を上回っているため、実質的に被告の相殺の主張は認められつつも、結論として支払額が減らないことになる。また、相殺の抗弁による既判力は「相殺をもって対抗した額」に限られるため、残存額が一部請求額を超える範囲では自働債権に既判力は生じず、被告に一方的な不利益はない。したがって、第一審の認容額を維持する控訴棄却判決は適法といえる。
結論
被告の控訴を棄却した原審の判断は正当である。債権総額から控除する計算手法は適切であり、不利益変更禁止の原則にも反しない。
実務上の射程
一部請求における過失相殺や相殺の抗弁の処理において「外側説」を確立した判例である。答案作成上は、一部請求の性質(処分権主義)と相殺の抗弁の特殊性を論じる際に必須の規範となる。特に控訴審での相殺主張と不利益変更禁止の原則が絡む場面での論理構成として重要である。
事件番号: 昭和57(オ)1023 / 裁判年月日: 昭和58年4月14日 / 結論: 破棄差戻
選択的に併合されている甲、乙両請求につき、甲請求の一部を認容しその余の請求を棄却した第一審判決に対し、被告が控訴し、原告が控訴、附帯控訴しなかつた場合において、控訴審は、第一審判決の右認容部分を取り消すべきであるとするときには、乙請求につき審理判断すべきであり、乙請求を全部理由がないと判断すべきときにのみ、原告の請求を…
事件番号: 平成2(オ)1456 / 裁判年月日: 平成6年4月21日 / 結論: 棄却
当事者が損害賠償の額を予定した場合においても、債務不履行に関し債権者に過失があったときは、特段の事情のない限り、裁判所は、損害賠償の責任及びその金額を定めるにつき、これをしんしゃくすべきである。