原告がその主張にかかる損害賠償債権額から一部弁済の受領分として一定の金額を控除し、その残額をもつて請求金額としている場合には、裁判所は、その認定にかかる原告の損害賠償債権額から原告の控除にかかる右一定金額を控除した金額を認容額とすべきであり、その一部を控除するにとどめることは、民訴法一八六条に違反するものとして違法である。
民訴法一八六条違反があるとされた事例
民訴法186条
判旨
不法行為の被害者が自認する弁済受領額を損害額から控除して請求している場合、裁判所は被告による弁済の抗弁の提出がなくても、その自認額の全額を認定損害額から控除しなければならない。これは民事訴訟法第246条(旧186条)が定める処分権主義の要請によるものである。
問題の所在(論点)
原告が請求額の算出にあたり弁済受領を自認し、これを損害額から控除して請求している場合において、被告から弁済の抗弁が提出されていないにもかかわらず、裁判所は当該自認額を認定額から控除すべきか。
規範
当事者は申立てた事項についてのみ裁判を受けるという処分権主義(民事訴訟法246条)に基づき、原告が自ら一定の弁済受領を自認し、これを損害総額から控除した残額を請求している場合、裁判所は被告による抗弁の有無にかかわらず、原告の申立の趣旨に従い、認定した損害額から当該自認弁済額を控除しなければならない。
重要事実
不法行為の被害者である被上告人が、加害者である上告人らに対し損害賠償を請求した事案である。被上告人は、訴訟の過程で、自らの損害総額から自賠責保険や他の共同不法行為者から受領済みの弁済額(合計128万3595円)をあらかじめ控除した残額を請求金額として主張した。しかし、原審は上告人が弁済の抗弁を提出していないことを理由に、自認額の一部(26万6305円)のみを控除して支払を命じたため、上告人が処分権主義違反を理由に上告した。
事件番号: 平成20(受)12 / 裁判年月日: 平成20年10月7日 / 結論: 破棄差戻
Yが運転する車両との衝突事故により傷害を負ったXが,Xの父が保険会社との間で締結していた自動車保険契約の人身傷害補償条項に基づき保険金の支払を受けた場合において,上記保険金の支払をもってYの損害賠償債務の履行と同視することはできないこと,上記保険契約にはいわゆる代位に関する約定があり,上記保険会社は上記保険金の支払によ…
あてはめ
被上告人は、自ら損害額から弁済受領分の金額を控除し、その残額を本訴の請求金額としている。このような申立がなされている以上、裁判所はその申立の趣旨に拘束される。たとえ上告人から明示的な弁済の抗弁が提出されていなくとも、被上告人が自ら認めている128万3595円の全額を認定損害額から控除しなければ、申立の範囲を超えた裁判を行うことになり、民事訴訟法186条(現246条)に違反する。原審が一部しか控除しなかった判断は、処分権主義の解釈適用を誤ったものである。
結論
裁判所は、被告の抗弁がなくても原告が自認する弁済額の全額を控除すべきである。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
処分権主義と弁論主義の境界が問題となる場面である。通常、弁済は抗弁事項(弁論主義)だが、原告が請求の範囲を限定する形で自認している場合は、裁判所の審判対象を画定する「申立の範囲」(処分権主義)の問題として処理される。答案では、原告の請求の趣旨や原因の構成を精査し、自認額が請求の枠組みに組み込まれている場合に本判例を引用すべきである。
事件番号: 平成2(オ)1146 / 裁判年月日: 平成6年11月22日 / 結論: 棄却
一 特定の金銭債権の一部を請求する訴訟において相殺の抗弁が理由がある場合には、当該債権の総額を確定し、その額から自働債権の額を控除した残存額を算定した上、請求額が残存額の範囲内であるときは請求の全額を、残存額を超えるときは残存額の限度でこれを認容すべきである。 二 特定の金銭債権の一部を請求する訴訟において相殺のため主…