不法行為による損害たる弁護士費用につき、事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情を斟酌して相当と認められる範囲内のものとして算定された額に対してさらに過失相殺の規定を適用するのは相当でない。
不法行為の損害たる弁護士費用と過失相殺の規定の適用
民法722条
判旨
不法行為に基づく損害賠償請求における弁護士費用は、諸般の事情を斟酌して相当と認められる額の範囲内で認められるものであり、算出された当該費用について更に過失相殺を適用することはできない。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償請求において、相当因果関係の範囲内で認められる弁護士費用に対し、民法722条2項による過失相殺を適用すべきか。
規範
不法行為と相当因果関係に立つ損害としての弁護士費用は、事案の難易、請求額、認容された額、その他諸般の事情を斟酌して「相当と認められる額」の範囲内のものに限られる。このようにして諸般の事情(被害者側の過失を含む)を考慮し、客観的に相当と判断された額については、重ねて民法722条2項による過失相殺の対象とはならない。
重要事実
被害者Dが死亡した交通事故に関し、遺族である被上告人らが上告人に対し、不法行為(民法709条、710条等)に基づく損害賠償を請求した。原審は、亡Dおよび被上告人らの慰謝料を算定するにあたり被害者側の過失を斟酌した(過失相殺を行った)。その一方で、損害として認められる弁護士費用については、他の損害項目とは異なり、算出された額から直接的な過失相殺を行わなかったため、上告人がこの点を違法として上告した。
事件番号: 昭和27(オ)722 / 裁判年月日: 昭和30年1月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】過失相殺(民法722条2項)は、被害者に生じた損害の総額に対して必ず一律に行わなければならないものではなく、項目別など個別の算定過程において適用することも許容される。 第1 事案の概要:上告人は、三輪車と相手方の車両がすれ違う際の事故により損害を被った。原審は、三輪車が右方に寄る以前の状況や事故態…
あてはめ
弁護士費用は、他の直接的な損害とは異なり、裁判所が事案の性質や認容額を考慮して「相当な範囲」を裁量的に判断するものである。原審は、慰謝料等の算定において既に被害者側の過失を斟酌しており、その結果認められた認容額等に基づき、弁護士費用を「相当と認められる額」として算出している。したがって、このように算出された弁護士費用は、それ自体が過失相殺的な考慮を経た後の最終的な損害額としての性質を持つため、これに再度過失相殺の規定を適用する必要はなく、適用すべきではない。
結論
弁護士費用を過失相殺の対象から除外した原審の判断は正当である。相当な範囲の弁護士費用として認定された額については、重ねて過失相殺を行うことは要しない。
実務上の射程
答案上、損害論で弁護士費用を論じる際に用いる。実務上の処理として、まず本体損害(逸失利益や慰謝料)について過失相殺を行い、その認容額の10%程度を弁護士費用として加算する手法の根拠となる。弁護士費用を算出する前段階で過失割合を考慮している以上、算出後の額をさらに削る必要がないことを説明する際に有用である。
事件番号: 昭和42(オ)819 / 裁判年月日: 昭和43年10月29日 / 結論: 棄却
(省略)