1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付を受けたときは,これらの各社会保険給付については,これらによるてん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。 2 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害をてん補するために労働者災害補償保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付の支給がされ,又は支給されることが確定したときには,それぞれの制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,てん補の対象となる損害は,不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきである。
1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付を受けたときに,これらの各社会保険給付との間で損益相殺的な調整を行うべき損害 2 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害をてん補するために労働者災害補償保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付の支給がされ,又は支給されることが確定したときに,損益相殺的な調整に当たって,損害がてん補されたと評価すべき時期
(1,2につき)民法709条,労働者災害補償保険法22条,労働者災害補償保険法22条の2,労働者災害補償保険法22条の3,国民年金法30条,厚生年金保険法
判旨
不法行為の被害者が損害賠償額の算定に当たり控除すべき利益を受領した際に、その利益を控除すべき時期について、遅延損害金の算定との関係で、損害発生時(事故時)ではなく「現実に給付を受けた時」を基準として充当計算(損益相殺的調整)を行うべきとした。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償額の算定において、損益相殺の対象となる利益(仮渡金等)を控除する場合、その充当の基準時は「損害発生時(不法行為時)」か、それとも「現実の受領時」か。また、受領時までの遅延損害金に充当すべきか。
規範
不法行為に基づく損害賠償債務は、損害の発生と同時に何らの催告を要せず遅滞に陥る。もっとも、被害者が不法行為と同一の事由により利益を得た場合、公平の観点からこれを損害額から控除(損益相殺)すべきであるが、その調整の時期は、現実の給付によって被害者の利益が確定した時を基準とすべきである。具体的には、現実に給付を受けた時点において、まずその時点までに発生している遅延損害金に充当し、なお残余があるときはこれを元本(損害額)に充当して控除する、いわゆる「法定充当」に準じた手法で調整を行うのが、不法行為の抑止及び被害者の完全な救済という制度趣旨に合致し相当である。
重要事実
加害者(被告)の運転する車両が、歩行中であった被害者(原告)に衝突し、重傷を負わせた。被害者はその後、政府の自動車損害賠償保障法に基づく「仮渡金」の支払いを受けた。被害者は損害賠償請求訴訟を提起したが、第一審および控訴審は、仮渡金の額を「不法行為時(事故時)」に発生した損害元本から直ちに控除する手法で損害額を算定した。これに対し、被害者は、仮渡金を受領した時点までの遅延損害金に先に充当すべきであると主張して上告した。
あてはめ
不法行為による損害賠償債務は事故時に発生するが、損益相殺的な調整は、現実に利益を受領したことによる利得を反映させるものである。仮渡金の制度趣旨は、損害確定前に迅速に被害者を救済する点にあり、現実に支払われるまでは被害者の手元に資金はない。これを不法行為時に遡って元本から控除すると、受領までの期間に発生すべき遅延損害金が不当に消滅することになり、被害者保護に欠ける。したがって、仮渡金の受領日において、それまでに発生した遅延損害金にまず充当し、残額を元本から控除する計算を行うべきである。原判決が事故時に遡って控除した点は、損益相殺の法的性格を誤解したものであり、相当ではない。
結論
損益相殺的な調整(控除)は、利益の現実の受領時を基準とし、その時点までの遅延損害金に充当すべきである。本件の仮渡金の控除についても、受領時を基準とした充当計算を行うべきであるとして、原判決を破棄・自判した。
実務上の射程
本判決は、自動車損害賠償保障法に基づく仮渡金や自賠責保険金のほか、不法行為後に発生した公的年金等の給付を控除する場合など、損益相殺的調整が問題となる場面全般に適用される重要な算定実務の指針である。
事件番号: 平成21(受)1932 / 裁判年月日: 平成22年10月15日 / 結論: 棄却
1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受けたときは,この社会保険給付については,これによるてん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。 2 被害者が,不法行為によ…