一 原動機付自転車に乗つた通行人が夜間国道上を通行中、暗渠新設工事のため同国道上に横たえられた枕木に激突、転倒し、死亡した場合において右枕木の位置およびその付近の夜間照明等について原判決認定のような事情(原判決理由参照)があるときは、右通行人が多少酒気を帯びており、右工事が同国道の管理者の許可を受けない等違法のものであつても、同管理者があらかじめ右工事を中止させて国道を原状に回復させ、これを常時安全良好な状態において維持しなかつたかぎり、右死亡による損害は同国道の管理に瑕疵があつたため生じたものというべきである。 二 不法行為に基づく損害賠償債務は、なんらの催告を要することなく、損害の発生と同時に遅滞に陥るものと解すべきである。
一 通行人の死亡による損害が国道管理の瑕疵のため生じたものと認められた事例 二 不法行為に基づく損害賠償債務の遅滞の時期
国家賠償法2条,国家賠償法3条,道路法32条,道路法施行令15条5号,民法412条
判旨
不法行為に基づく損害賠償債務は、損害の発生と同時に催告を要することなく遅滞に陥ると解すべきである。また、控訴審において被控訴人が請求を拡張する旨の記載がある書面を陳述した場合は、附帯控訴及び請求拡張の申立てと解される。
問題の所在(論点)
不法行為に基づく損害賠償債務について、履行遅滞の責任が発生する時期(起算点)はいつか。また、控訴審において被控訴人が「準備書面」で請求額を増額させた場合、不利益変更禁止の原則との関係でどのように評価されるか。
規範
不法行為に基づく損害賠償債務は、期限の定めのない債務であるが、被害者保護の観点から、損害の発生と同時に、何らの催告を要することなく直ちに遅滞に陥るものと解するのが相当である。
重要事実
上告人の不法行為により損害を被った被上告人らが、損害賠償金及び損害発生日である昭和31年1月22日以降の遅延損害金の支払を求めた事案。原審において被控訴人(被上告人)は、請求の趣旨として金額を増額させた「準備書面」を提出・陳述した。これに対し、上告人は第一審判決より不利益な判決はなされ得ない(不利益変更禁止の原則)こと、及び遅延損害金の起算日について争い、上告した。
あてはめ
不法行為による賠償債務は、債権者による請求を待つまでもなく、損害が発生した時点をもって直ちに履行期に達し、債務者は遅滞の責めを負う。本件では昭和31年1月22日に損害が発生しているため、同日から年5分の遅延損害金が発生するといえる。また、手続面では、被控訴人が提出した準備書面に請求の拡張が含まれており、これが口頭弁論で陳述されている以上、実質的に附帯控訴及び請求の拡張の申立てがあったと認められるため、第一審より多額の賠償を命じても不利益変更禁止の原則には反しない。
結論
不法行為に基づく損害賠償債務は損害発生と同時に遅滞に陥る。本件上告は棄却される。
実務上の射程
不法行為の損害賠償請求において、遅延損害金の起算点を「事故発生時」とする実務上の確立した規範。民法412条3項の例外として、不法行為の特質(被害者による催告が困難な場合が多いこと等)を考慮した判断である。民法改正後もこの判例法理は維持されている(民法412条の2等の解釈)。
事件番号: 昭和55(オ)1113 / 裁判年月日: 昭和58年9月6日 / 結論: 棄却
不法行為と相当因果関係に立つ損害である弁護士費用の賠償債務は、当該不法行為の時に履行遅滞となるものと解すべきである。