損害賠償契約が昭和二八年六月成立したとの主張に対し、昭和二九年六月三日右契約が成立したとの認定をしても請求原因事実の主張と認定との間に同一性を失わない。
主張と認定との間に同一性があるとされた事例
民訴法186条
判旨
裁判所が原告の主張する契約成立時期と異なる時期を認定しても、それが請求原因事実の主張と認定との間で同一性を失うものでない限り、弁論主義に反しない。また、上訴人にとって有利な認定判断については、上訴人はその違法を理由として上訴を申し立てることはできない。
問題の所在(論点)
1. 契約成立時期について当事者の主張と異なる事実を認定することが、弁論主義または請求原因事実の同一性の範囲を逸脱するか。2. 自己に有利な計算(支払済分の控除)がなされたことについて、違法を理由に上告を申し立てることができるか。
規範
訴訟における事実認定は当事者の主張する請求原因事実の範囲内で行われるべきであるが、特定の事実(本件では契約成立時期)について主張と認定が多少合致しなくても、請求の同一性を失わない範囲であれば弁論主義の違反とはならない。また、上訴の利益は、原判決が上訴人に不利益であることを要し、上訴人に有利な判断について違法を主張することは許されない。
重要事実
被上告人(原告)は損害賠償契約が昭和28年6月に成立したと主張した。これに対し上告人(被告)は契約締結の事実は認めたが、成立時期については争っていた。原審は、契約成立時期を昭和29年6月3日と認定し、さらに契約成立前の支払分を賠償金の支払済分として控除して上告人の債務額を算定した。上告人は、認定された成立時期が主張と異なる点や、支払済分の控除の過程に不服があるとして上告した。
あてはめ
1. 被上告人が主張した時期と原審が認定した時期(昭和29年6月3日)は、契約の存否という請求原因の核となる事実の同一性を損なうほどの差異ではない。したがって、主張と異なる時期を認定しても弁論主義違反や理由不備には当たらない。2. 原審が本件契約成立前の支払を債務額から控除したことは、上告人の支払うべき金額を減らすものであり、ひっきょう上告人に有利な判断である。自己に有利な判断に対してはその不当性を訴える上訴の利益を欠くため、違法を主張して上告することはできない。
結論
本件上告を棄却する。契約成立時期の認定に違法はなく、また自己に有利な判断を上告理由とすることはできない。
実務上の射程
弁論主義の適用範囲において、日時等の細部の認定が当事者の主張と完全に一致しなくとも、請求の同一性の範囲内であれば許容されることを示す。また、民事訴訟法における「上訴の利益」の要件を確認する際、自己に有利な認定を争うことの不可性を説明する論拠として活用できる。
事件番号: 昭和34(オ)117 / 裁判年月日: 昭和37年9月4日 / 結論: 棄却
一 原動機付自転車に乗つた通行人が夜間国道上を通行中、暗渠新設工事のため同国道上に横たえられた枕木に激突、転倒し、死亡した場合において右枕木の位置およびその付近の夜間照明等について原判決認定のような事情(原判決理由参照)があるときは、右通行人が多少酒気を帯びており、右工事が同国道の管理者の許可を受けない等違法のものであ…