会社の管理職である男性従業員2名が同一部署内で勤務していた女性従業員らに対してそれぞれ職場において行った性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた出勤停止の各懲戒処分は,次の(1)~(4)など判示の事情の下では,懲戒権を濫用したものとはいえず,有効である。 (1) 上記男性従業員らは,①うち1名が,女性従業員Aが執務室において1人で勤務している際,同人に対し,自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器,性欲等についての極めて露骨で卑わいな内容の発言を繰り返すなどし,②他の1名が,当該部署に異動した当初に上司から女性従業員に対する言動に気を付けるよう注意されていながら,女性従業員Aの年齢や女性従業員A及びBが未婚であることなどを殊更に取り上げて著しく侮蔑的ないし下品な言辞で同人らを侮辱し又は困惑させる発言を繰り返し,女性従業員Aの給与が少なく夜間の副業が必要であるなどとやゆする発言をするなど,同一部署内で勤務していた派遣労働者等の立場にある女性従業員Aらに対し職場において1年余にわたり多数回のセクシュアル・ハラスメント等を繰り返した。 (2) 上記会社は,職場におけるセクシュアル・ハラスメントの防止を重要課題と位置付け,その防止のため,従業員らに対し,禁止文書を周知させ,研修への毎年の参加を義務付けるなど種々の取組を行っており,上記男性従業員らは,上記の研修を受けていただけでなく,管理職として上記会社の方針や取組を十分に理解して部下職員を指導すべき立場にあった。 (3) 上記(1)①及び②の各行為によるセクシュアル・ハラスメント等を受けた女性従業員Aは,上記各行為が一因となって,上記会社での勤務を辞めることを余儀なくされた。 (4) 上記出勤停止の期間は,上記(1)①の1名につき30日,同②の1名につき10日であった。
職場における性的な内容の発言等によるセクシュアル・ハラスメント等を理由としてされた懲戒処分が懲戒権を濫用したものとはいえず有効であるとされた事例
労働契約法15条
判旨
職場におけるセクハラについて、被害者が関係悪化を懸念して拒否を控えることがある点を踏まえれば、明確な拒否や事前の警告がなくても、管理職による反復的な性的言動を理由とする出勤停止処分および降格は、懲戒権・人事権の濫用には当たらない。
問題の所在(論点)
被害者の明確な拒否や会社による事前の警告・注意がない状況下で行われた、管理職による反復的なセクハラ行為を理由とする出勤停止および降格処分の適法性。
規範
懲戒処分が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、権利の濫用として無効となる(労働契約法15条)。また、懲戒処分を理由とする降格については、非違行為により企業秩序を害したことに伴う秩序保持のための措置として合理性を有する限り、人事権の濫用(同法14条類推)とはならない。
重要事実
水族館運営会社の管理職X1・X2は、約1年間にわたり、派遣社員Aに対し自らの不貞行為や性生活に関する卑わいな発言(X1)、年齢や独身であることを侮辱する発言(X2)を繰り返した。会社はセクハラ防止を重要課題とし研修も実施していた。Aは報復等を恐れて抗議を控えていたが、退職時に被害を申告。会社はX1に出勤停止30日、X2に同10日を命じ、両名を1等級降格させた。原審は、Aの明確な拒否がなく会社側の事前警告もなかったとして処分を無効とした。
あてはめ
まず、性的言動の内容は女性従業員に強い屈辱感を与え、執務環境を著しく害する不適切なものである。次に、被害者が職場関係の悪化を懸念して抗議を控えるのは通例であり、明確な拒否がないことを加害者に有利にしんしゃくすべきではない。また、管理職である以上、会社の方針を認識し部下を指導すべき立場にあり、密室での行為について会社が事前に警告する機会もなかった以上、事前指導の欠如も有利な事情とはならない。さらに、本件行為はAの退職の一因となっており、企業秩序に与えた影響は看過し難い。したがって、給与上の不利益を考慮しても、本件各処分が重きに失し社会通念上の相当性を欠くとはいえない。
結論
本件各出勤停止処分および降格は、いずれも懲戒権・人事権の濫用に当たらず、有効である。
実務上の射程
セクハラ事案における「被害者の態度の評価」と「管理職の責務」を重視した判例である。被害者の沈黙を『合意』や『許容』と安易に認定することを否定しており、実務上、事前の注意指導が困難な密行性のある非違行為については、一発での重い懲戒処分の有効性を肯定しやすくなる射程を持つ。
事件番号: 昭和58(オ)1408 / 裁判年月日: 昭和61年3月13日 / 結論: 破棄自判
日本電信電話公社(昭和五九年法律第八五号日本電信電話株式会社法附則一一条による廃止前の日本電信電話公社法に基づき設立されたもの)が健康管理上の措置が必要であると認められる職員に対し二週間の入院を要する頸肩腕症候群総合精密検診の受診を命ずる業務命令を発した場合において、右職員に労働契約上その健康回復を目的とする健康管理従…
事件番号: 昭和58(行ツ)127 / 裁判年月日: 昭和63年1月21日 / 結論: 棄却
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事件番号: 昭和41(行ツ)40 / 裁判年月日: 昭和43年2月16日 / 結論: 棄却
教育長専決規程(昭和三一年福島県教育委員会訓令第二号)に基づき、教育長が専決した教育委員会の権限に属する教員の分限免職処分は違法ではない