電力会社に勤務する労働者が就業時間外に職場外において会社の原子力発電所の設置に反対する趣旨のビラを配布した場合において、そのビラが、原子力発電所の安全性等に関して事実に反するものであり、これを配布することにより、各方面に会社が進めてきた原子力発電所建設推進運動に対する不信感や原子力発電所について誤った恐怖心を抱かせ、会社の業務に重大な支障を生じさせたなど原判示の事実関係があるときは、右労働者は、会社の就業規則に定める懲戒事由の「会社の体面をけがした者」及び「故意又は重過失によって会社に不利益を及ぼした者」に該当し、会社はこれを理由として懲戒処分をすることができる。
労働者が就業時間外に職場外においてビラを配布したことを理由として懲戒処分をすることができるとされた事例
労働基準法89条
判旨
就業時間外かつ職場外のビラ配布であっても、内容が事実に反し、または事実を誇張・歪曲したものであり、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがある場合には、企業秩序維持のための懲戒対象となり得る。本件ビラ配布は表現の自由を不当に侵害するものではなく、懲戒処分は適法である。
問題の所在(論点)
就業時間外かつ職場外で行われたビラ配布行為が、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがある場合に、企業秩序維持を目的とした懲戒処分の対象となるか。また、かかる懲戒権の行使が表現の自由を侵害し公序良俗に反するか。
規範
労働者が就業時間外に職場外でしたビラ配布行為であっても、(1)ビラの内容が企業の経営政策や業務等に関し事実に反する記載をし、または事実を誇張・歪曲して記載したものであり、(2)その配布によって企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなどの場合には、企業秩序の維持確保のために懲戒を課することが許される。
重要事実
上告人(労働者)らは、被上告会社(使用者)の経営政策や業務等に関するビラを、就業時間外かつ職場外において配布した。当該ビラには、事実に反する記載、あるいは事実を誇張・歪曲した記載が含まれていた。会社は、これを就業規則上の懲戒事由である「会社の体面をけがした者」および「故意または重過失によって会社に不利益を及ぼした者」に該当するとして懲戒処分を行った。
あてはめ
本件ビラ配布は、内容において事実に反する記載や誇張・歪曲が含まれており、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあると認められる(要件(1)(2)の充足)。このような行為は、就業規則に定める「会社の体面を汚し、不利益を及ぼす行為」に該当する。また、この懲戒権行使は、表現の自由を不当に侵害するものではなく、労働者の思想・信条自体を規制するものでもないため、公序良俗に反するともいえない。
結論
本件ビラ配布は組合活動としての正当な範囲を逸脱しており、これに対する懲戒処分は有効である。したがって、本件処分が不当労働行為に当たるとはいえない。
実務上の射程
職場外・時間外の私的生活上の行為であっても、企業秩序に直接関連し、円滑な運営を阻害する具体的おそれがある場合には、懲戒権の対象となり得ることを示した。ビラの内容の真実性や、企業運営への具体的な影響の有無が判断の分水嶺となる。答案上は、私生活上の行為への懲戒の限界を論ずる際の主要な規範として用いる。
事件番号: 昭和53(オ)1144 / 裁判年月日: 昭和58年9月8日 / 結論: 棄却
労働者の配布したビラの内容が、大部分事実に基づかず、又は事実を誇張歪曲して使用者を非難攻撃し、全体として使用者を中傷誹議するもので、右ビラの配布により労働者の使用者に対する不信感を醸成して企業秩序を乱し、又はそのおそれがあつたときは、右ビラの配布は、就業時間外に職場外において職務遂行に関係なく行われたものであつても、就…
事件番号: 昭和47(オ)777 / 裁判年月日: 昭和52年12月13日 / 結論: 破棄自判
一、日本電信電話公社の就業規則において禁止されている政治活動とは、人事院規則一四―七所定の政治的目的をもつてされる政治的行為を指すものではなく、社会通念上政治的と認められる活動をいう。 二、日本電信電話公社の職員が勤務時間中に「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載したプレートを着用してこれを職場の同僚に訴えか…
事件番号: 平成3(行ツ)155 / 裁判年月日: 平成6年12月20日 / 結論: その他
一 私立学校の職員室内で、教職員が使用者の許可を得ないまま組合活動としてビラの配布をした場合において、右ビラが労働組合としての日ごろの活動状況等を内容とするもので、違法不当な行為をあおり又はそそのかすこと等を含むものではなく、右配布の態様も、就業時間前の通常生徒が職員室に入室する頻度の少ない時間帯にビラを二つ折りにして…