一、日本電信電話公社の就業規則において禁止されている政治活動とは、人事院規則一四―七所定の政治的目的をもつてされる政治的行為を指すものではなく、社会通念上政治的と認められる活動をいう。 二、日本電信電話公社の職員が勤務時間中に「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載したプレートを着用してこれを職場の同僚に訴えかけることは、日本電信電話公社法三四条二項所定の職務専念義務に違反する。 三、電報電話局の局所内において職員が社会通念上政治的な意味をもつ「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」という文言を記載したプレートを着用して勤務しこれを職場の同僚に訴えかけることは、局所内の秩序風紀の維持を目的とする日本電信電話公社の就業規則の政治活動禁止規定に違反する。 四、電報電話局の局所内において局所の管理責任者の許可を得ないでした職員のビラ配布行為は、その配布の態様につきとりたてて問題にする点はなかつたとしても、上司の適法な命令に抗議する目的でされ、その内容においても上司の適法な命令に抗議し局所内での違法なプレート着用等をあおりそそのかすことを含むものであつて、局所内の秩序を乱すおそれがあつた以上、局所内の秩序風紀の維持を目的とする局所内のビラの配布等につき事前に局所の管理責任者の許可を受けなければならない旨を定める日本電信電話公社の就業規則の規定に違反する。 五、休憩時間中であつても、局所内における演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等を行うことは、局所内の施設の管理を妨げるおそれがあり、他の職員の休憩時間の自由利用を妨げひいてはその後の作業能率を低下させるおそれがあり、その内容いかんによつては企業の運営に支障をきたし企業秩序を乱すおそれがあるから、休憩時間中にこれを行うについても局所の管理責任者の事前の許可を受けなければならない旨を定める日本電信電話公社の就業規則の規定は、休憩時間の自由利用に対する合理的な制約というべきである。
一、日本電信電話公社の就業規則において禁止されている政治活動の意義 二、勤務時間中に「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載したプレートを着用した職員の行為が日本電信電話公社法三四条二項所定の職務専念義務に違反するとされた事例 三、電報電話局の局所内において「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載したプレートを着用して勤務した職員の行為が局所内における政治活動を禁止した就業規則の規定に違反するとされた事例 四、電報電話局の局所内における職員のビラ配布行為が局所内におけるビラ配布等につき事前に局所の管理責任者の許可を受けなければならない旨の就業規則の規定に違反するとされた事例 五、休憩時間中の局所内における演説、集会、貼紙、掲示、ビラ配布等についても局所の管理責任者の事前の許可を受けなければならない旨を定める日本電信電話公社の就業規則の規定が休憩時間の自由利用に対する合理約な制約であるとされた事例
日本電信電話公社法33条,日本電信電話公社法34条1項,日本電信電話公社法34条2項,労働基準法34条3項,労働基準法89条
判旨
企業秩序維持を目的とする就業規則による職場内での政治活動禁止は、社会通念上政治的と認められる活動を対象とし、実質的に秩序を乱すおそれがある場合に合理的な制約として許容される。本件プレートの着用および抗議ビラの無許可配布は、職務専念義務に違反し企業秩序を乱すおそれがあるため、これらを理由とする戒告処分は適法である。
問題の所在(論点)
就業規則が局所内での政治活動を一律に禁止し、許可なくビラを配布したことを懲戒事由とすることが、労働者の権利や労働基準法34条3項(休憩時間の自由利用)に照らして許されるか。また、その際の「政治活動」の範囲と、実質的違反性の判断基準が問題となる。
規範
就業規則による政治活動の禁止は、企業秩序維持を主眼とする合理的な制約として許される。禁止対象となる「政治活動」とは社会通念上政治的と認められる活動を指すが、実質的に秩序を乱すおそれのない特別の事情がある場合には違反とならない。また、休憩時間中の活動であっても、施設管理権や企業秩序維持の観点から、許可制による合理的な制約を受ける。
重要事実
日本電信電話公社の職員が、勤務時間中に「ベトナム侵略反対」等の政治的主張を記したプレートを着用した。上司の取り外し命令に従わなかったため、これに抗議する目的で休憩時間中に局所内でビラを無許可配布した。公社はこれらを就業規則違反(政治活動禁止、命令不服従、無許可配布)として戒告処分に付した。
あてはめ
プレート着用はわが国の政治的立場に反対する性質を持ち、社会通念上「政治活動」に当たる。勤務時間中の着用は、身体的作業に支障がなくとも精神的注意力を職務以外に向けさせ、同僚の注意力も散漫にさせるため、職務専念義務(公社法34条2項)に反し企業秩序を実質的に乱す。また、ビラ配布は休憩時間中であっても、上司の適法な命令に抗議し違法行為を煽る内容を含んでおり、企業の運営を阻害し秩序を乱すおそれがあるため、許可制の制約を免れない。
結論
本件のプレート着用、命令不服従、およびビラ配布はいずれも就業規則の懲戒事由に該当する。これらに対し最も軽い戒告処分を選択したことは懲戒権の濫用にも当たらず、本件処分は適法である。
実務上の射程
職場内における政治活動の制限について、「社会通念」を基準に幅広く認めつつ、「実質的な秩序攪乱のおそれ」を限定原理として用いる枠組みを示した。私企業的な公労法適用法人においても、施設管理権や秩序維持に基づく制約が休憩時間を含め及ぶことを認めており、実務上、懲戒の有効性を判断する際の基礎的な判断枠組みとして機能する。
事件番号: 平成2(オ)156 / 裁判年月日: 平成4年3月3日 / 結論: 棄却
電力会社に勤務する労働者が就業時間外に職場外において会社の原子力発電所の設置に反対する趣旨のビラを配布した場合において、そのビラが、原子力発電所の安全性等に関して事実に反するものであり、これを配布することにより、各方面に会社が進めてきた原子力発電所建設推進運動に対する不信感や原子力発電所について誤った恐怖心を抱かせ、会…