工場内において従業員が会社の許可を得ないでした特定の政党の機関紙及び選挙法定ビラの配布につき、それが、休憩時間に、休憩室を兼ねている工場食堂において、食事中の従業員数人に一枚ずつ平穏に手渡し、他は食卓上に静かに置くという方法で行われ、配布に要した時間も数分間であつたなど、判示のような事情があるときは、右ビラ配布行為は、工場内の秩序を乱すおそれがなく、会社内で業務外のビラ配布等を行うときはあらかじめ会社の許可を受けなければならない旨を定める就業規則及び労働協約の規定に違反しない。 (反対意見がある。)
工場内における従業員のビラ配布行為が会社内におけるビラ配布等につき事前に会社の許可を受けなければならない旨の就業規則等の規定に違反しないとされた事例
労働基準法89条
判旨
企業内でのビラ配布行為が就業規則等の許可制に違反する場合であっても、配布の態様、経緯、目的、内容等に照らし、企業秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的に見て当該規定に違反せず、懲戒事由に該当しない。
問題の所在(論点)
就業規則および労働協約上のビラ配布許可制に違反する無許可配布行為に対し、企業秩序を乱すおそれがないとして懲戒処分を無効とすることができるか(懲戒事由の存否、実質的違反性の有無)。
規範
就業規則等のビラ配布許可制は、工場内の秩序維持を目的とするものである。したがって、形式的に無許可配布が行われたとしても、当該行為が工場内の秩序を乱すおそれのない「特別の事情」が認められる場合には、実質的に当該規定に違反するものとはいえない。懲戒の適否は、この実質的違反の有無によって判断される。
重要事実
労働組合支部長である被上告人は、参議院議員選挙に際し、休憩時間中の工場食堂において、特定政党の号外や法定ビラを配布した。配布方法は、食事中の従業員数人に平穏に手渡し、他は食卓上に置くもので、所要時間は数分であった。会社は就業規則のビラ配布許可規定違反および工場長の注意(業務命令)無視を理由に、被上告人を戒告処分とした。
事件番号: 昭和47(オ)777 / 裁判年月日: 昭和52年12月13日 / 結論: 破棄自判
一、日本電信電話公社の就業規則において禁止されている政治活動とは、人事院規則一四―七所定の政治的目的をもつてされる政治的行為を指すものではなく、社会通念上政治的と認められる活動をいう。 二、日本電信電話公社の職員が勤務時間中に「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載したプレートを着用してこれを職場の同僚に訴えか…
あてはめ
本件配布行為は、①昼の休憩時間に休憩室を兼ねる食堂で行われ、②食事中の従業員へ平穏に手渡し、あるいは食卓に置くという極めて穏当な態様であり、③受領や閲読・廃棄も従業員の自由に任されていた。④配布時間も数分間と短時間である。これらの態様、経緯、目的、内容を総合考慮すれば、工場内の秩序を乱すおそれのない「特別の事情」が認められる。したがって、就業規則等への実質的違反は認められず、これを前提とする業務命令違反も成立しない。
結論
本件配布行為は就業規則等に違反せず、懲戒事由を欠くため、本件戒告処分は無効である。
実務上の射程
職場外の政治的活動であっても、職場内で配布等が行われる場合は企業秩序維持の観点から規制が及ぶが、本判決は、休憩時間中の平穏な配布については実質的な秩序攪乱がない限り懲戒できないことを示した。答案上は、許可制の合理的限定解釈として提示し、あてはめで「態様・時間・場所・受領の任意性」等を個別具体的に検討する際の指標となる。
事件番号: 平成2(オ)156 / 裁判年月日: 平成4年3月3日 / 結論: 棄却
電力会社に勤務する労働者が就業時間外に職場外において会社の原子力発電所の設置に反対する趣旨のビラを配布した場合において、そのビラが、原子力発電所の安全性等に関して事実に反するものであり、これを配布することにより、各方面に会社が進めてきた原子力発電所建設推進運動に対する不信感や原子力発電所について誤った恐怖心を抱かせ、会…