殺人等の罪により懲役20年の刑に服した前科がある被告人が被害者1名を殺害した住居侵入,強盗殺人の事案において,本件犯行とは関連が薄い前記前科があることを過度に重視して死刑に処した裁判員裁判による第1審判決の量刑判断が合理的ではなく,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断して同判決を破棄し無期懲役に処したものと解される原判決の刑の量定は,甚だしく不当で破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。 (補足意見がある。)
被告人を死刑に処した裁判員裁判による第1審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の量刑が維持された事例
刑訴法381条,刑訴法397条1項,刑訴法411条2号
判旨
死刑の選択に当たっては、公平性の確保及び死刑が究極の刑罰であることに鑑みた慎重な検討が必要であり、過去の裁判例の集積から導き出される考慮要素やその重みを共通認識とした上で、死刑選択が真にやむを得ないか議論すべきである。被害者1名の強盗殺人において、殺害の計画性が認められず、かつ前科が本件犯行と社会的類似性を欠く場合には、前科を過度に重視して死刑を選択することは、合理的根拠を欠くものとして許されない。
問題の所在(論点)
裁判員裁判が死刑を選択した事案において、控訴審が「死刑の選択がやむを得ないとはいえない」として第1審判決を破棄し無期懲役を選択することが、量刑不当として許されるか。特に、被害者1名の強盗殺人における「計画性の欠如」および「殺人前科の評価」のあり方が問題となる。
規範
死刑は究極の刑罰であり、その適用は慎重かつ公平でなければならない。裁判体(裁判員裁判を含む)は、過去の裁判例の集積から見いだされる考慮要素(犯行の罪質、動機、計画性、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、年齢、前科等)及び各要素の重みの程度を検討し、それを出発点として総合評価を行い、死刑選択が「真にやむを得ない」か判断すべきである。特に被害者1名の事案で前科を重視する場合、前科と再犯の関連性や経緯を具体的に考察し、前科を過度に重視してはならない。控訴審は、第1審の死刑選択が合理的かつ具体的・説得的な根拠に基づいているかを審査する。
事件番号: 平成25(あ)1729 / 裁判年月日: 平成27年2月3日 / 結論: 棄却
女性1名を殺害するなどした住居侵入,強盗殺人,建造物侵入,現住建造物等放火,死体損壊等のほか,その前後約2か月間に繰り返された強盗致傷,強盗強姦等の事案において,女性の殺害を計画的に実行したとは認められず,また,殺害態様の悪質性を重くみることにも限界があるのに,同女に係る事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反…
重要事実
被告人は、金品強奪目的でマンションに侵入し(強盗目的)、発見した被害者(当時74歳)の頸部を包丁で突き刺して殺害した(強盗殺人)。被告人には、妻を刺殺し娘を焼死させた等で懲役20年に処された前科があったが、出所後約半年で本件に及んだ。第1審は裁判員裁判で、殺意の強固さ、態様の冷酷さ、及び殺人前科を重視して死刑を選択。これに対し原審(控訴審)は、侵入時の殺意や事前の計画性が認められないこと、及び前科は家族間の無理心中等の私憤であり本件の利欲目的とは類似性が薄いことを理由に、第1審を破棄し無期懲役とした。
あてはめ
本件は、侵入時に殺意があったとまで確定できず、事前の殺害計画も認められない。計画性がないことは、生命侵害の危険性や生命軽視の度合い、ひいては行為に対する非難を一定程度弱める要素となる。また、第1審が重視した前科は家族間の感情的対立に起因するものであり、利欲目的の本件強盗殺人とは社会的類似性が認められない。加えて、出所後に更生を試みたが前科により職を維持できず自暴自棄になったという経緯も酌むべき余地がある。これらを総合すれば、前科を過度に重視して死刑を選択した第1審の判断には、具体的・説得的な根拠があるとは言い難い。
結論
第1審が死刑を選択した判断は合理的ではなく、無期懲役とした原判決の刑の量定は是認できる。したがって、原判決を維持し上告を棄却する。
実務上の射程
裁判員裁判の量刑であっても、死刑選択については「永山基準」等の先例に基づく公平性と慎重さが求められ、控訴審による事後審査の対象となる。特に「被害者1名・計画性なし・前科の異質性」がある事案では、死刑回避の方向に強く働くことが示された。
事件番号: 平成27(あ)1585 / 裁判年月日: 平成30年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑判断において、殺害の計画性の欠如や前科がない等の有利な事情を考慮しても、犯行態様の残虐性、結果の重大性、動機に酌量の余地がない場合には、死刑の選択は免れない。 第1 事案の概要:被告人は窃盗の罰金刑の資金を得るため、金品窃取目的でA方に侵入。物色中に発見されたため強取を決意し、A(57歳…
事件番号: 平成27(あ)120 / 裁判年月日: 平成29年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】高齢者夫婦を殺害し金品を奪取した強盗殺人等の事案において、殺害の態様が冷酷かつ悪質であり、2名の生命を奪った結果が極めて重大である場合、当初からの殺害意図の欠如や前科関係等の事情を考慮しても、死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は債務弁済のため、以前の仕事を通じて生活状況を把握して…
事件番号: 平成23(あ)494 / 裁判年月日: 平成24年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】確定裁判の余罪である事件の量刑判断において、前件を実質的に再度処罰する趣旨で考慮することは許されないが、犯行に至る経緯として考慮することは許される。死刑の選択に当たっては、殺害された被害者が1名であっても犯情や結果の重大性を踏まえ検討されるべきだが、計画性の欠如や矯正可能性等の事情も総合的に考慮さ…