女性1名を殺害するなどした住居侵入,強盗殺人,建造物侵入,現住建造物等放火,死体損壊等のほか,その前後約2か月間に繰り返された強盗致傷,強盗強姦等の事案において,女性の殺害を計画的に実行したとは認められず,また,殺害態様の悪質性を重くみることにも限界があるのに,同女に係る事件以外の事件の悪質性や危険性,被告人の前科,反社会的な性格傾向等を強調して死刑に処した裁判員裁判による第1審判決の量刑判断が合理的ではなく,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断して同判決を破棄し無期懲役に処したものと解される原判決の刑の量定は,甚だしく不当で破棄しなければ著しく正義に反するということはできない。 (補足意見がある。)
被告人を死刑に処した裁判員裁判による第1審判決を量刑不当として破棄し無期懲役に処した原判決の量刑が維持された事例
刑訴法381条,刑訴法397条1項,刑訴法411条2号
判旨
裁判員の参加する刑事裁判における量刑(特に死刑の選択)について、控訴審は第1審の判断が合理的であるかを審査すべきであり、死刑という究極の刑罰の適用にあたっては、従来の裁判例の集積から見出される考慮要素やその重みの程度を共通認識とした上で、死刑選択が真にやむを得ないといえる具体的・説得的な根拠が示される必要がある。
問題の所在(論点)
死刑選択の判断における「慎重性」および「公平性」の要請と、裁判員裁判の量刑判断に対する控訴審の審査の在り方(特に殺害された被害者が1名の強盗殺人事案における死刑選択の合理性)。
規範
死刑は究極の刑罰であり、その適用は慎重に行われなければならず、裁判の公平性確保も強く要請される。したがって、裁判員裁判であっても、死刑を選択する際には、従来の裁判例の集積(犯行の罪質、動機、計画性、態様、結果の重大性、遺族の感情、社会的影響、前科等)から見出される考慮要素および各要素の重みの程度・根拠を検討し、それを共通認識として出発点とした評議が不可欠である。死刑の科刑が是認されるためには、死刑選択がやむを得ないと認めた具体的・説得的な根拠が必要であり、控訴審は第1審の判断が合理的といえるかを審査する。
事件番号: 平成25(あ)1127 / 裁判年月日: 平成27年2月3日 / 結論: 棄却
殺人等の罪により懲役20年の刑に服した前科がある被告人が被害者1名を殺害した住居侵入,強盗殺人の事案において,本件犯行とは関連が薄い前記前科があることを過度に重視して死刑に処した裁判員裁判による第1審判決の量刑判断が合理的ではなく,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断して同判決を破棄し無期懲役…
重要事実
被告人は、強盗目的で面識のない21歳女性宅に侵入し、包丁で胸部等を執拗に突き刺して殺害した(松戸事件)。その前後2か月間に、別の女性5名に対し、強盗致傷、強盗強姦等の重大かつ悪質な犯行を繰り返した。被告人には強盗致傷等の同種前科・累犯前科があり、出所後3か月足らずでの犯行であった。第1審(裁判員裁判)は、松戸事件の残虐性や他事件の重大性、前科、反社会的な性格、遺族の厳しい処罰感情等を重視し死刑を選択。これに対し原審(控訴審)は、松戸事件に計画性が認められないことや、他事件が生命を奪うものではないこと等の先例の傾向を重視し、第1審を破棄して無期懲役とした。
あてはめ
まず、松戸事件は強固な殺意に基づく執拗な犯行であるが、殺害の計画性は認められず、殺害直前の経緯や動機も具体的に確定できていない。次に、松戸事件以外の強盗致傷等は、いずれも人の生命を奪う目的の犯行ではなく、死刑を根拠付ける事情とするには限界がある。さらに、被告人の前科や反社会的な性格傾向といった一般情状は、責任の程度を中心とする量刑判断においては二次的な考慮要素に留まる。以上によれば、殺害された被害者が1名で計画性も欠く本件において、死刑選択を肯定する具体的・説得的な根拠があるとは言い難い。したがって、第1審の判断は合理性を欠き、無期懲役とした原判決は是認できる。
結論
被告人を死刑に処した第1審判決を破棄し、無期懲役とした原判決の維持を相当として、検察官の上告を棄却する。
実務上の射程
本決定は、裁判員裁判であっても、死刑選択においては従来の量刑傾向(永山基準等の裁判例の集積)を尊重し、公平性を維持すべきであることを明確にした。特に、被害者1名の強盗殺人において「計画性の欠如」が死刑回避の強力な要素となることを再確認しており、答案作成上は、裁判員裁判の尊重と量刑の公平性・慎重性の調和を論じる際の最重要判例となる。
事件番号: 平成19(あ)1317 / 裁判年月日: 平成20年9月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑が適当であるとされるためには、犯行の性質、動機、態様、特に殺害の手段方法の執拗性・残虐性、結果の重大性、特に殺害された被害者の数、遺族の被害感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状等、諸般の事情を併せ考察し、その罪責が誠に重大であって、罪刑の均衡の観点からも、一般予防の観点からも…
事件番号: 平成27(あ)1585 / 裁判年月日: 平成30年9月6日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑判断において、殺害の計画性の欠如や前科がない等の有利な事情を考慮しても、犯行態様の残虐性、結果の重大性、動機に酌量の余地がない場合には、死刑の選択は免れない。 第1 事案の概要:被告人は窃盗の罰金刑の資金を得るため、金品窃取目的でA方に侵入。物色中に発見されたため強取を決意し、A(57歳…
事件番号: 平成18(あ)2178 / 裁判年月日: 平成21年6月9日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の量刑を判断するに際しては、犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性、被害者の遺族の感情、社会的影響、犯人の年齢、前科、犯行後の情状の各事情を総合的に考慮し、その罪責が誠に重大であって、極刑もやむを得ないと認められる場合には死刑を選択することができる。 第1 事案の概要:被告人は、パチンコ店への侵…
事件番号: 令和1(あ)953 / 裁判年月日: 令和3年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択が許容されるか否かは、犯行の性質、動機、態様、結果の重大性、遺族の処罰感情、社会的影響、被告人の年齢や前科等の諸事情を総合考慮し、罪責が極めて重大でやむを得ない場合に認められる。本件では、遺産取得等の動機に酌むべき点はなく、信頼を利用した計画的・冷酷な犯行態様により3名の命を奪った責任は…