強盗殺人事件等に関する無期懲役の確定裁判のある被告人が,同事件の13日後に犯した被殺者1名の住居侵入,強盗殺人の事案(確定裁判の余罪)につき,無期懲役の量刑が維持された事例
刑法9条,刑法50条,刑法240条,刑訴法411条2号
判旨
確定裁判の余罪である事件の量刑判断において、前件を実質的に再度処罰する趣旨で考慮することは許されないが、犯行に至る経緯として考慮することは許される。死刑の選択に当たっては、殺害された被害者が1名であっても犯情や結果の重大性を踏まえ検討されるべきだが、計画性の欠如や矯正可能性等の事情も総合的に考慮されるべきである。
問題の所在(論点)
確定判決を経た前件が余罪(本件)の量刑判断においてどの程度考慮され得るか、及び、被害者が1名である強盗殺人事件において死刑選択の可否を判断する際の基準が問題となる。
規範
確定裁判がある事件の余罪について刑を量定する場合、前件を実質的に再度処罰する趣旨で考慮することは二重処罰の禁止の観点から許されない。しかし、余罪に至るまでの重要な経緯や動機、被告人の性格・傾向を示す事情として前件を考慮することは許される。また、死刑の選択(永山基準)においては、被害者が1名であっても、犯行の態様、動機、結果の重大性、被告人の更生可能性等を総合的に考慮し、慎重に判断されなければならない。
重要事実
被告人は、大阪市内の紳士服店主を殺害し金品を強奪した強盗殺人事件(前件)のわずか13日後、本件である薬局店主(84歳女性)に対する強盗殺人事件に及んだ。被告人は前件及び詐欺等の罪により無期懲役に処せられ、その裁判が確定して服役中であったが、DNA型鑑定により本件犯行が発覚した。本件は、当初は強盗目的で侵入したものの、被害者に激しく抵抗されたため、その場で殺害を決意して窒息死させたものである。第1審及び控訴審は、前件との近接性や結果の重大性を重視しつつも、計画性の欠如や更生の兆しを理由に無期懲役を選択した。
事件番号: 平成25(あ)1127 / 裁判年月日: 平成27年2月3日 / 結論: 棄却
殺人等の罪により懲役20年の刑に服した前科がある被告人が被害者1名を殺害した住居侵入,強盗殺人の事案において,本件犯行とは関連が薄い前記前科があることを過度に重視して死刑に処した裁判員裁判による第1審判決の量刑判断が合理的ではなく,被告人を死刑に処すべき具体的,説得的な根拠を見いだし難いと判断して同判決を破棄し無期懲役…
あてはめ
まず、本件は前件から僅か13日後に同種の凶悪犯行を繰り返しており、犯行に至る経緯としての悪質性は極めて高い。この事実は「実質的な再処罰」ではなく「犯行に至る経緯」として正当に評価される。次に、死刑選択の妥当性について検討すると、被害者が1名であっても、落ち度のない高齢女性を窒息死させた結果は重大であり犯情は甚だ悪い。しかし、(1)殺害について当初からの計画性が認められず、抵抗を受けてとっさに決意されたものであること、(2)無期懲役の服役を通じて更生の兆しが見られ、矯正可能性が否定できないこと、(3)反省の姿勢がうかがえること等の有利な事情も認められる。これらを総合すれば、死刑の選択に「ちゅうちょ」を覚え、無期懲役を選択した判断は是認される。
結論
本件において、前件を犯行の経緯として考慮した上で無期懲役を選択した原判決は、刑の量定において甚だしく不当とはいえず、正義に反するとは認められないため、上告を棄却する。
実務上の射程
量刑論において「確定裁判がある場合の余罪評価」の限界を示す規範として活用できる。答案上は、二重処罰の禁止に触れない範囲での「性格・経緯」としての考慮を論じる際に有用。また、被害者1名の場合でも死刑検討の遡上に載り得ること(永山基準の適用)を確認しつつ、計画性や更生可能性による回避の論理を示す際の参照判例となる。
事件番号: 平成2(あ)1110 / 裁判年月日: 平成8年12月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】死刑の選択に当たっては、犯行の罪質、動機、態様、結果の重大性、遺族の被害感情、社会的影響、前科、犯行後の情状等を総合的に考慮し、その罪責が誠に重く、やむを得ない場合に認められる。自首や反省等の被告人に有利な事情を考慮しても、犯行の計画性や残虐性が著しい場合には死刑判決を是認できる。 第1 事案の概…
事件番号: 平成27(あ)120 / 裁判年月日: 平成29年12月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】高齢者夫婦を殺害し金品を奪取した強盗殺人等の事案において、殺害の態様が冷酷かつ悪質であり、2名の生命を奪った結果が極めて重大である場合、当初からの殺害意図の欠如や前科関係等の事情を考慮しても、死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は債務弁済のため、以前の仕事を通じて生活状況を把握して…
事件番号: 平成19(あ)97 / 裁判年月日: 平成22年10月14日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】被告人が強盗の目的で二人の被害者の住宅に侵入し、それぞれに対し頸部を圧迫するなどの暴行を加えて殺害し、現金を強取した事案において、死刑の選択がやむを得ないとされた事例。 第1 事案の概要:被告人は、金員を強取する目的で二度にわたり住宅に侵入した。第一の事件では、被害者の頸部を両手で強く絞めて殺害し…
事件番号: 平成28(あ)1889 / 裁判年月日: 令和元年7月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】金銭目的で強盗殺人と強盗殺人未遂を繰り返した事案において、周到な準備に基づく強固な殺意、結果の重大性、被害者遺族の峻烈な処罰感情に鑑みれば、若年であったこと等の事情を考慮しても死刑の選択はやむを得ない。 第1 事案の概要:被告人は、共犯者と共謀の上、(1)強盗目的でA方に侵入し、妻Bを絞殺後に帰宅…