1 受訴裁判所によってされた刑訴法90条による保釈の判断に対して,抗告審としては,受訴裁判所の判断が委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある。 2 公判審理の経過及び罪証隠滅のおそれの程度を勘案して被告人の保釈を許可した原々審の判断が不合理であることを具体的に示さないまま,不合理とはいえない原々決定を裁量の範囲を超えたものとして取り消して保釈請求を却下した原決定は,刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があり,取消しを免れない。
1 受訴裁判所によってされた刑訴法90条による保釈の判断に対する抗告審の審査の方法 2 詐欺被告事件において保釈を許可した原々決定を取り消して保釈請求を却下した原決定に刑訴法90条,426条の解釈適用を誤った違法があるとされた事例
(1,2につき)刑訴法90条,刑訴法426条
判旨
保釈の抗告審は、現に審理を担当する受訴裁判所の裁量的判断が不合理でないかどうかを審査すべきであり、これを取り消すには不合理であることを具体的に示す必要がある。
問題の所在(論点)
保釈許可決定に対する抗告審において、受訴裁判所が行った刑訴法90条に基づく職権保釈の判断を覆すために必要な審査の在り方(裁量権の逸脱・濫用の審査方法)。
規範
職権保釈(刑訴法90条)の判断は、現に審理を担当している裁判所の裁量に委ねられている。したがって、抗告審は、受訴裁判所の判断が委ねられた裁量の範囲を逸脱していないか、すなわち不合理でないかどうかを審査すべきであり、受訴裁判所の判断を覆す場合には、その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある。
重要事実
被告人は共犯者らと共謀し、架空のLED照明発注を装って2億3000万円余を詐取したとされる詐欺被告事件。受訴裁判所(原々審)は、最重要証人の主尋問が終了した段階で、被告人の罪証隠滅の現実的可能性は高くなく、身柄拘束の継続は不相当であるとして、保証金300万円および関係者との接触禁止等の条件を付して保釈を許可した。これに対し抗告審(原審)は、被告人が公訴事実を否認しており罪証隠滅のおそれが相当に強度であること等を理由に、原々審の判断は裁量の範囲を超えたものとして保釈許可決定を取り消した。
事件番号: 平成27(し)223 / 裁判年月日: 平成27年4月15日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】裁量保釈の許否に関する第1審の判断が不合理とはいえない場合、抗告審がこれを裁量の範囲外として取り消すことは刑訴法90条等の解釈適用を誤る違法がある。 第1 事案の概要:被告人は予備校理事長で、生徒に対し準強姦(わいせつ行為)を行ったとして起訴された。第2回公判で検察側立証の中核である被害者の尋問が…
あてはめ
原審は、原々審が公判審理の経過(重要証人の尋問終了)や罪証隠滅のおそれの程度を勘案してなした判断について、それが不合理であることを具体的に示していない。本件の審理経過等に照らせば、適当な条件を付して保釈を許可した原々審の判断が不合理であるとはいえず、原審がこれを裁量の範囲を超えたものとして取り消したことは、刑訴法90条および426条の解釈適用を誤った違法がある。
結論
原決定(抗告審)には裁量審査の誤りがあるためこれを取り消し、原々決定(保釈許可)を維持すべきである。
実務上の射程
受訴裁判所の裁量を重視する「事後審的性格」を強調した判例であり、保釈許可に対する検察官抗告や、却下に対する被告人側の抗告において、原審の判断が具体的状況に照らし「不合理か否か」という枠組みで主張を組み立てる際に用いる。
事件番号: 平成24(し)534 / 裁判年月日: 平成24年10月26日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】権利保釈除外事由(刑訴法89条)が存在する場合でも、被告人が事実を認めて証拠調べが実質的に終了し、親族の監督や転居・カウンセリング受診などの環境が整っていれば、職権保釈(90条)を認めた原々審の判断は裁量の範囲内として適法である。 第1 事案の概要:12歳の女児に対する強制わいせつ被告事件。被告人…
事件番号: 昭和46(し)38 / 裁判年月日: 昭和46年6月1日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】控訴審たる高等裁判所がした保釈却下決定に対し、刑訴法433条の特別抗告を直接申し立てることは許されず、同法428条に基づき当該高等裁判所に異議の申立てをすべきである。 第1 事案の概要:1. 控訴審たる高等裁判所が保釈却下決定を行った。 2. これに対し、申立人は高等裁判所への異議申立てを行わず、…
事件番号: 平成22(し)288 / 裁判年月日: 平成22年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁量保釈の適否について、公訴事実とされた犯罪事実の性質等に照らし不適切な点があり得るとしても、著しく正義に反すると認められない限りは原決定を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人が勾留されている公訴事実について、原決定が裁量により保釈を許可したところ、検察官側が犯罪事実の性質等を理由に不服を…
事件番号: 昭和45(し)90 / 裁判年月日: 昭和45年11月26日 / 結論: 棄却
所論引用の名古屋高裁昭和三〇年一月一三日決定(高等裁判所刑事裁判特報二巻一・二・三合併号三頁)および福岡高等裁判所同年七月一二日決定(高等裁判所刑事判例集八巻六号七六九頁)は、いずれも併合罪の関係にある数個の起訴事実のうち一部の事実についてのみ勾留状が発せられている場合において、いわゆる権利保釈事由または保釈取消事由の…