特別抗告審において原決定が取り消され,保釈を許可した原々裁判が是認された事例
刑訴法90条,刑訴法411条1号,刑訴法426条,刑訴法434条
判旨
権利保釈除外事由(刑訴法89条)が存在する場合でも、被告人が事実を認めて証拠調べが実質的に終了し、親族の監督や転居・カウンセリング受診などの環境が整っていれば、職権保釈(90条)を認めた原々審の判断は裁量の範囲内として適法である。
問題の所在(論点)
刑訴法89条の権利保釈除外事由が認められる事案において、被告人の自白、証拠関係、身元引受人の監督状況、生活拠点の変更、専門家によるカウンセリング等の事情がある場合に、刑訴法90条による職権保釈を認めることが裁量の範囲内といえるか。
規範
刑訴法90条に基づく職権保釈の可否は、被告人の出頭の確保、証拠隠滅の防止、再犯の危険性の程度、身体拘束の継続により被告人が受ける不利益の程度、事案の性質、証拠関係、被告人の身上・生活環境等を総合考慮し、裁判所の広範な裁量によって判断される。
重要事実
12歳の女児に対する強制わいせつ被告事件。被告人には先行する同種事件5件の起訴があり、常習性が強く権利保釈除外事由(89条3号、4号)が認められる状況であった。しかし、被告人は全事実を認めて証拠調べが終了しており、追起訴の予定もなかった。原々審は、保証金75万円および被害者等との接触禁止を条件に保釈を許可したが、抗告審(原決定)はこれを取り消し保釈を却下した。
あてはめ
被告人が捜査段階から一貫して自白し、先行事件も含め証拠調べが終了していることから罪証隠滅の恐れは低い。また、両親が身柄を引き受けて公判出頭と日常生活を監督することを誓約し、犯行現場から離れた地への転居や臨床心理士によるカウンセリング受診の意向など、再犯防止に向けた具体的な環境整備がなされている。これらの身上・環境面を考慮すると、被害者等との接触禁止等の条件を付した上で保釈を許可した判断に不当な点は認められない。
事件番号: 平成14(し)218 / 裁判年月日: 平成14年8月19日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人に前科がなく、安定した社会生活を営んでおり、被害者との示談が成立している等の事情がある場合、裁量保釈を否定して保釈請求を却下することは、刑訴法90条の解釈適用を誤った裁量権の逸脱として取り消されるべきである。 第1 事案の概要:被告人は相被告人と共謀し、サーフィン中にボードが接触した被害者に…
結論
原々審の保釈許可決定は裁量の範囲内であり、これを取り消した原決定には刑訴法90条の解釈適用の誤りがある。原決定を取り消し、準抗告を棄却(保釈許可を維持)する。
実務上の射程
権利保釈除外事由(特に常習性や重大事案)がある場合でも、自白・証拠調べ完了・身元引受・治療的介入・転居といった事情を具体的に提示することで、90条の裁量保釈を導くための強力な判断材料となる。職権保釈における「裁量の逸脱」の判断基準を示す一例である。
事件番号: 平成27(し)223 / 裁判年月日: 平成27年4月15日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】裁量保釈の許否に関する第1審の判断が不合理とはいえない場合、抗告審がこれを裁量の範囲外として取り消すことは刑訴法90条等の解釈適用を誤る違法がある。 第1 事案の概要:被告人は予備校理事長で、生徒に対し準強姦(わいせつ行為)を行ったとして起訴された。第2回公判で検察側立証の中核である被害者の尋問が…
事件番号: 平成22(し)288 / 裁判年月日: 平成22年7月2日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁量保釈の適否について、公訴事実とされた犯罪事実の性質等に照らし不適切な点があり得るとしても、著しく正義に反すると認められない限りは原決定を維持すべきである。 第1 事案の概要:被告人が勾留されている公訴事実について、原決定が裁量により保釈を許可したところ、検察官側が犯罪事実の性質等を理由に不服を…
事件番号: 平成26(し)560 / 裁判年月日: 平成26年11月18日 / 結論: その他
1 受訴裁判所によってされた刑訴法90条による保釈の判断に対して,抗告審としては,受訴裁判所の判断が委ねられた裁量の範囲を逸脱していないかどうか,すなわち,不合理でないかどうかを審査すべきであり,受訴裁判所の判断を覆す場合には,その判断が不合理であることを具体的に示す必要がある。 2 公判審理の経過及び罪証隠滅のおそれ…
事件番号: 平成17(し)110 / 裁判年月日: 平成17年3月9日 / 結論: その他
【結論(判旨の要点)】被告人に前科がなく、受験が目前に迫る等の身上事情がある場合、共犯者の供述や本人の自白等の証拠関係に照らしても、保釈却下は裁量権の逸脱であり、職権による保釈(刑訴法90条)を認めるべきである。 第1 事案の概要:被告人は大麻約1.153グラムの共謀所持の罪で起訴された。共犯者Aが被告人との共謀を供述…