航空機に機内預託手荷物として積載するスーツケースに隠匿する方法でうなぎの稚魚を無許可で輸出しようとした行為について,入口にエックス線検査装置が設けられ,周囲から区画された国際線チェックインカウンターエリア内にある保安検査済みシールを貼付された手荷物は,そのまま機内預託手荷物として航空機に積載される扱いになっていたなどの本件事実関係(判文参照)の下においては,被告人らが,同スーツケースを機内持込手荷物と偽って入口での保安検査を回避して同エリア内に持ち込み,不正に入手していた保安検査済みシールを貼付した時点では,既に関税法111条3項,1項1号の無許可輸出罪の実行の着手があったものと解するのが相当である。 (補足意見がある。)
関税法111条3項,1項1号の無許可輸出罪につき実行の着手があるとされた事例
刑法43条,関税法111条3項,関税法111条1項1号
判旨
無許可輸出罪の実行の着手は、航空機積載に向けた一連の手続のうち、発覚の可能性が最も高い保安検査を不正に通過し、通常そのまま積載される状態(検査済シールの貼付等)を作出した時点で認められる。
問題の所在(論点)
関税法111条1項1号、3項の無許可輸出罪において、機内預託手荷物として密輸出を企てた場合、運送委託(チェックイン)前のどの段階で実行の着手が認められるか。
規範
実行の着手は、犯罪構成要件の実現に至る客観的な危険性が明らかに認められる行為を開始したか否かによって判断される。不作為や予備的行為を超え、輸出の既遂(積載)に至る一連の手続過程の中で、その成功を左右する最大の障害(保安検査等)を乗り越え、通常であればそのまま輸出に至る状況が作出された場合には、運送委託の完了前であっても実行の着手を認めるのが相当である。
重要事実
被告人らは、うなぎの稚魚を無許可で密輸出するため、成田国際空港において、(1)ダミー荷物で保安検査を受け「検査済シール」を不正入手し、(2)稚魚入りの本件スーツケースを機内持込手荷物と偽って保安検査を回避してチェックインカウンターエリア内に持ち込み、(3)同エリア内で本件スーツケースに上記シールを貼付した。当時、同エリア内でシール貼付済みの荷物は、カウンターでの預託時に再確認されずそのまま積載される運用であった。その後、航空券購入手続中に税関職員に発見された。第1審は未遂罪を認めたが、原審は運送委託(預託)が未了であるとして予備罪にとどまるとした。
あてはめ
本件の空港運用では、チェックインカウンターエリア入口の保安検査が密輸出の成否を分ける最大の鍵であった。被告人らは、偽装工作によりこの保安検査を事実上パスし、同エリア内において「検査済シール」を貼付している。この状態になれば、通常は再確認されることなく機内に積載される扱いとなっていた。したがって、本件スーツケースに不正入手したシールを貼付した時点において、既に航空機に積載(輸出)するに至る客観的な危険性が明らかに認められる。運送委託という形式的行為の開始を待たずとも、輸出実現に向けた実質的な危険が発生したといえる。
結論
本件スーツケースに検査済シールを貼付した時点で無許可輸出罪の実行の着手(未遂)が成立する。したがって、予備罪にとどまるとした原判決を破棄し、未遂罪の成立を認めた第1審判決を維持すべきである。
実務上の射程
実行の着手時期を「運送委託」という特定の形式的行為に限定せず、当該現場の検査・積載システムの具体的運用に即して、実効的な危険性の有無で判断する点に射程がある。答案上は、構成要件的結果(輸出)に至る「密接性」や「現実的危険性」を判断する際、障害となる手続(検査等)を実質的に通過したか否かを重視する論理として活用できる。
事件番号: 昭和26(れ)1151 / 裁判年月日: 昭和26年11月15日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】無免許での密輸出罪の成否について、貨物を携行して船に乗込み、目的地に向けて出航した時点で、関税法上の密輸出罪の実行の着手または既遂が認められる。 第1 事案の概要:被告人は、昭和23年7月20日頃、大阪港において免許を受けることなく貨物を朝鮮へ密輸出することを企図した。被告人は、当該貨物を携帯して…
事件番号: 昭和25(れ)945 / 裁判年月日: 昭和25年9月28日 / 結論: 棄却
所論鑑定人Aの鑑定の趣旨が、原判決摘示の通り、判示B丸を以てすれば冬期においても周到なる注意に依つて天候を見定めて出航すればa港より朝鮮への渡航は可能であるとするにあること、その鑑定書の記載自体によつて明瞭である。犯人が客観的に犯罪の遂行に可能な手段を以てその實行に着手すれば、犯行實現の危険性あること勿論であるから、偶…
事件番号: 昭和27(あ)6454 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実行の着手は、犯行を企図した意思が外部に現れた行為といえるか否かによって判断され、密輸出の予備行為を超え、客観的に密輸出に至る危険性が認められる行為があった場合に認められる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、貨物を朝鮮へ密輸出することを企図し、互いに共謀した。被告人らは、密輸出の実現に向けて具…