所論鑑定人Aの鑑定の趣旨が、原判決摘示の通り、判示B丸を以てすれば冬期においても周到なる注意に依つて天候を見定めて出航すればa港より朝鮮への渡航は可能であるとするにあること、その鑑定書の記載自体によつて明瞭である。犯人が客観的に犯罪の遂行に可能な手段を以てその實行に着手すれば、犯行實現の危険性あること勿論であるから、偶犯人の用意に欠くるところがあつてその目的を遂げ得なかつたとしても、それは障碍未遂を以て論ずべきであり、不能犯とみるべきではない。
關税法第七六條第一項違反の不能犯でない一場合
關税法76條1項(昭和25年4月30日改正前),刑法43條
判旨
客観的に犯罪遂行が可能な手段をもって実行に着手した以上、行為者の用意不足により目的を遂げられなかったとしても、不能犯ではなく障害未遂として扱うべきである。また、関税法上の密輸出罪は、物品を領外に仕向けられた船舶に積載して出航した時点で既遂に達する。
問題の所在(論点)
1. 客観的には可能な手段を用いながら、行為者の個別具体的な用意不足により結果が発生しなかった場合、不能犯となるか、未遂罪となるか。 2. 関税法違反(密輸出)の既遂時期はいつか。
規範
1. 実行の着手が認められる場合、客観的に犯罪の遂行が可能な手段を用いていれば、犯行実現の危険性が認められる。行為者の準備不足等の事情により結果が発生しなかったとしても、それは障害未遂の問題であり、不能犯とはならない。 2. 関税法上の輸出行為は、海上においては目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載することによって完成(既遂)する。
重要事実
被告人は、税関の免許を受けず、法定の除外事由もないにもかかわらず、貨物を朝鮮釜山へ輸送する目的で、同港に仕向けられた「B丸」に積載した。昭和23年12月16日、富山県a港を出航したが、冬期の気象条件や船舶の能力、行為者の用意不足等の事情により、結果として目的を達することができなかった。弁護人は、冬期の当該船舶による渡航は不可能であり、不能犯であると主張して上告した。
事件番号: 昭和25(れ)1208 / 裁判年月日: 昭和25年11月10日 / 結論: 棄却
一 本件においてA丸が舞鶴港から福井縣三国港に向け出航する予定であつたことは所論のとおりであるが被告人等は右三国港から朝鮮向けの密航船があること及び同船に連絡する船が舞鶴港から出航することを聞知し此の機会を利して朝鮮えの物品の密輸出を企て判示物件をA丸に積込んだものであり原判決挙示の証拠によればその頃密航船が航行してい…
あてはめ
1. 鑑定によれば、B丸を用いても冬期に周到な注意を払い天候を見定めて出航すれば、朝鮮への渡航は客観的に可能であったと認められる。このように、客観的に犯罪遂行が可能な手段を選択して実行に着手している以上、具体的場面において被告人の用意に欠けるところがあって目的を遂げられなかったとしても、犯行実現の危険性が否定されるものではない。 2. 被告人は、国外に仕向けられた船舶に貨物を積載して既に出航している。判例の基準に照らせば、この出航の時点で輸出行為は完成しているといえる。
結論
1. 本件は不能犯ではなく、障害未遂(または既遂)の問題として論ぜられるべきであり、有罪とした原判決に違法はない。 2. 船舶が領外に向けて出航した以上、密輸出罪の既遂が成立する。上告棄却。
実務上の射程
不能犯と未遂罪の区別において、具体的予見説に近い立場から「客観的な遂行可能性」を重視している点に特徴がある。答案上は、実行の着手後の危険性判断において、行為者の主観や偶然の事情を除外した客観的状況から結果発生の蓋然性を肯定する文脈で活用できる。また、密輸出罪の既遂時期についての確定判例として、行政刑法の文脈でも参照される。
事件番号: 昭和25(れ)433 / 裁判年月日: 昭和25年9月19日 / 結論: 棄却
所論のように朝鮮向け船舶が當時絶對に存在しなかつたということは原審の認定しない事實であつて、原判決の摘示事實とその舉げている證據によれば、かかる船舶が存在し被告人等もこれが來航を豫期して密輸出物資を多量に買入れ、これと朝鮮在住者宛の手紙等を取り纒めて梱包し、貨物自動車二台に積載し、眞夜中ひそかに海岸近くまで運搬したので…
事件番号: 昭和27(あ)6454 / 裁判年月日: 昭和29年5月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】実行の着手は、犯行を企図した意思が外部に現れた行為といえるか否かによって判断され、密輸出の予備行為を超え、客観的に密輸出に至る危険性が認められる行為があった場合に認められる。 第1 事案の概要:被告人A及びBは、貨物を朝鮮へ密輸出することを企図し、互いに共謀した。被告人らは、密輸出の実現に向けて具…
事件番号: 昭和24(れ)1946 / 裁判年月日: 昭和25年1月19日 / 結論: 棄却
一 原判決の認定した本件犯罪事實は、要するに、被告人A、同Bは、原審相被告人C、同D及び第一審相被告人Eと共謀の上相共に物資を石川縣a港から船積みして朝鮮に密輸出しようと企て、被告人Aにおいて、判示のごとく昭和二二年一一月中右目的に使用するため機帆船F丸を買い取り、その修理艤装を進め同年一二月中旬頃迄の間に燃料その他消…
事件番号: 昭和28(あ)47 / 裁判年月日: 昭和30年10月4日 / 結論: 棄却
一 外国で入手した砂糖三万斤をわが領海内まで運航した来た上、他の船に積替え、二日宛の間隔をおいて三回に各別の三ケ所に一万斤づつ陸揚げした場合には、右陸揚毎に各別の密輸入罪が成立する。 二 貿易等臨時措置令施行当時命令の定める場合ではないのに政府以外の者が税関の免許なくして貨物(免税品)を輸入したときは、貿易等臨時措置令…